かわいいふたり


39度3分。
今時珍しい水銀の体温計が指す。
けほ、と咳をした雪男の頭を獅郎が撫でた。

「塾の方には連絡してやるから今日は休め」
「…ごめんなさい」

ぎゅ、と布団を握る手に、二周りくらい大きい手が重なる。
獅郎は苦笑して、いいんだ、と笑いかけた。

「焦らなくてもいい」
「はい…」

この小さな少年は、彼の幼さの割に背負うものが多い。だから、何一つ落とさずにその背中で守りたくて、人一倍に頑張るくせがある。
風邪は、雪男を休めるにはいい理由だなと獅郎は思う。

「だから、しっかり休め」

雪男はもう一度はい、と返事をした。

「寝れるか?父さんが絵本でも…」
「大丈夫です、仕事してください」

子供ではあるが、雪男はそういう所はしっかりしていた。それでも獅郎は心配らしく、早く戻ってくるから!と、言ってのけた。

「あの、神父さん」
「ん?」

雪男の言葉に従い、仕事に出て行く獅郎に言い忘れたこと。
正確には、くるりと振り返った養父宛てでは無いのだが、その方が都合が良かった。

「兄さんには来ないよう言ってくれませんか?」
「ん、風邪移っちゃうもんな」
「はい」
「重々言っとくよ」
「お願いします」

今度こそ、獅郎は部屋を出ていって、ぱたん、と扉が閉じる音。
しっかり者の息子なら、ちゃんと寝るだろうと思う。問題なのは。

「よ」

ズボンを引っ張ったこちらの息子である。

「雪男、大丈夫なのかよ」

燐は俯き加減だからその表情は読めない。ただし随分落ち込んでいる様に見えた。風邪の原因が彼にあるわけではないのに。

「聞いてただろ?」
「……おう」
「明日には治るさ」
「そっか」

明るくなる声のトーン。
兄弟揃って判りやすいなと思わず頬が緩んだ。

「だから入るんじゃねーぞ?」
「うぐっ」
「雪男のことだから、お前が入ったら目茶苦茶怒るぞ、自分の風邪なんか気にしないで」
「……それは、やだ」
「じゃあ言われた通りにするんだな」
「…………」

燐は危なっかしい。だが、それと同時に雪男よりも素直だった。
彼の弟ならばここで聞き分けよくはい、と言うのだろう。
だが、獅郎は決して燐を責めたりはしない。燐のそんな所が失くなって欲しく無いからだ。

「さて、燐」
「なんだ?」
「父さんはこれから仕事に行く」
「知ってる」
「お前、今日休みだよな」
「うん」
「まあ、だからなんだ」

少し悪戯っぽく笑って、迷う息子に言う。

「例えお前が雪男の寝てる時に部屋に入っても父さんは判らない」
「!」

ぱ、と燐は顔を輝かせた。いいのか。小さく尋ねられる。

「精々雪男に見つからないようにしろよ?じゃ、俺出かけるから」
「い、いってら」

出来れば仕事休んで影から見守りたいなあ、なんて、さながら親バカの様な事を獅郎は思ったりした。





かわいいふたり

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