瞬間。

世界がとまって。



"あ、キスされる"



確証のある予感がして俺は目を閉じる。



癖というもの。誰にでもあるそういうもの。雪男の場合はキスの前に俺の顎に手を当てて上を向かせて、親指で唇をなぞる。それまでは何の予感もなくて、例えば今は厨房で料理を作って居たところなのだけれどいつの間にか後に立っていて吃驚して振り返ったら、と言った風だ。キスは好き。雪男とのはもっと好き。なんというかこう…愛されてるなあ、なんて柄にもなく思ってしまうから。言ってやらないけど。言ったら絶対こいつは調子に乗る。俺は黙って目を閉じて、キスが降ってくるのを待ってるだけ。長いこと唇を弄って(俺のなんの可愛げもないむしろ乾燥気味の唇なんか触ってなにが楽しいのか理解し難いが)ずいぶん待たせられることもあるけれど、絶対早くとは言わない。多分雪男は待ってるのだろう。だから言ったら負けなのだ、好き同士になってから無くなりつつある兄の威厳を保つためにも。


今日も親指が唇に触れる。

俺は目を閉じて、雪男はどんな顔をしているのだろう。
キスの時に目を開けないのは俺の癖。目を開いた目の前に雪男の顔が合ったりしたら今度こそ溶けてしまう。

そうだ。
もし目を開いて驚いた雪男が居たらそれは。
凄く凄く、愉快だと。

思った。

目を閉じたまま、首に腕を回して、少し背伸び。兄貴よりも高くなりやがってこのやろう。
少し片目を開いたら、思い通り吃驚した顔があって、俺は満足して、笑って。

キスをした。








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