二辺の関係



一度だけ、志摩はきちんと燐に思いを告げたことがある。冗談みたいに言うんじゃなく、目を見て、心から好きなのだと言った事が一度だけ。
まだ祓魔師にもなっていない位昔に。
そして、その時の答えは聞いていないままだった。




スーパーから寮に帰る道中、志摩は、一歩先を歩く燐の後ろ姿を眺めていた。無造作な髪の毛、たくましくは無いが、殴り合いになったら死を覚悟しなきゃいけないような力の腕。
女の子と間違えることはまずないのに。
(なんでかな、やっぱり好きなんよね)
自分も、燐の弟も。
恋敵であり、先生であり、今は仲間である彼に、志摩は、今までもこれからも勝つ事はない。
だが、好きで仕方ないのだ、燐の事が。

不毛。無意味。無駄。
生産性のない、成果も、報酬も、恩恵もない。

どこまでも、くだらない。
「なんかなあ」
「ん?」
口に出していたのかとハッとし、振り返った燐に笑いかける。
「どーしたんだ?」
「いや、昼食楽しみやなって」
「うそ」
「え、」
どきりと肩が跳ねた。
「うそついてる」
「ついてへんよ、早う寮いこ」
「やだ」
完全に燐が歩を止め、志摩が追いついてしまう。
「お前さっきからおかしいぞ」
「なんやいきなり…ええやろ、関係あらへんし」
「関係あるだろ、廉造の事なんだから」
(なんやそれ)
燐の言葉に心が掻き乱され、志摩の口調が荒く声も大きくなっていく。しかし直す気にもなれなかった。
「俺の事だからって何、俺の事は俺の事やろ、燐の事と違うやん」
「一緒だ、だって俺、お前が楽しくねえと面白くねーもん」
(なあ、止めて)
「お前のもんは俺のもんって事?とんだジャイアンやな」
(そんなん言われたら)
「ジャイアンで結構、大切な奴だから助けたいし、一緒に居たい」
(俺、馬鹿だから期待するんや)
「燐」
「なんだ?」
「好き」
燐が、息を呑んだ。
全く予想していなかったらしい。
言った本人すらびっくりしているのだから当たり前といえば当たり前だ。
廉造は深呼吸をしてもう一度言った。
「好きや、燐」

そういえば、あの時以来かも知れないなと、上手く動かない頭でぼんやりとそんなことを考える。
多分、目の前で立ち尽くす彼は覚えているだろう。
残酷に優し過ぎる彼なのだから。

「あの時の答え、聞かせてくれへん?」
「あの、時」
「そ、覚えてるやろ?」
こくりと小さく燐が頷いた。
本当に、優しいのだ。それはそれは残酷という形容詞が似合う程に。彼は優しさで人を殺せるとは、言えて妙だと思った。
「答え、な?」
「……ごめん」
燐は、真っ直ぐ見据えたままそういった。待たせた事か、応えられないことか、その両方か。
予想は出来ていた。むしろそれ以外の答えは無かったとも言える。
最初から最後まで負け試合。
キックオフすらない、不戦敗。
「なんや、意外にへこむわ」
「わりぃ」
「その上謝られたら再起不能やな」
「………」
(あれ、俺って意地悪好きなんや)
嫌な自分を発見しつつ、志摩はその場に屈んだ。生憎涙は流れない。こんなんじゃ自分が本気じゃなかったみたいだなと惨めな気分になった。
燐はそんな志摩を見下ろして、なかなか上から見る事のない彼の頭に、手を置いて、一緒になってしゃがんで。
ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。
「髪、セットすんのそれなりに時間かかるんやけど」
「……から」
微かに、燐の口元が動いた。耳を寄せ、聞き返す。
「え?」
「そんな事気にしない、廉造とお似合いすぎて見てる方が恥ずかしくなるようなそんな奴、絶対いるから」
「、…な」
「だから、元気出せ」
耐え切れず、志摩は大声で笑った。燐はびっくりして目を見開く。
一通り彼は笑った後、自分と一緒に無理矢理に燐も立たせた。
「あー、もー…」
「廉造?」
「な、燐」
「うん」
「あとちょっとだけ好きでいさせて。お前が言ったくらいのいい人見つけに行くまで、ちょっとだけ」
「…ん」
燐が頷くのをみて、今度は一歩、志摩が前を行く。
「昼飯食べながら呑もう!」
「昨日の今日で!?」
「ええやん、どーせ夜呑むんやし」
「まあそうだな…よし、つまみ作るか」
二人はまた、一歩の差で歩き始める。最初から最後まで友達で、仲間である彼らは。
「でな、燐」
「おう」
「こんなええ物件振ったんやから、若先生と決着つけてな?」
「……おう」
背中を押し合って、押し合い続けて、交わる事はないのだった。







二辺の関係
(平行//)

[]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -