誰よりも
彼は嬉しかったら花が咲いたように笑う。
彼はとても唐突に激昂する。
彼は時折悔しさに涙をこぼす。
そして彼は何よりも人を求める。
何よりも何よりも人が大好きだから。
それが悪魔と云われる奥村燐の本体だ。
(なんら人間と変わりないのに)
もしかしたら自分よりも人間味に溢れているじゃないか、と雪男はふつりと湧き上がりかけた怒りを微妙に笑うことでごまかした。
こと兄が関係すると普段の冷静さを欠く、周りに悪い欠点だと言われても直す気はない自分もついでに。
「ん、どうか、した?」
「?」
寝たと思っていた腕の中から声がして、思わず肩を震わせた。
思わず顔を向ければじいっ、とこちらを見る自分と同じ青い目が二つ。
「何が」
「ごまかしても無駄だからな」
兄貴舐めんなー
いやいや、弟に色々してやられてる時点で威厳とか無いから
ぐっ…この野朗言うように…って!その手に乗ると思ったか
ちっ、乗りかけてたんだからそのまま乗ってよ…
そこでなぜか燐が噴出した、なにがおかしいのかは分からないが気持ちが空気を伝ってきて、なぜか雪男も笑えた。
燐
雪男?
今度は、し返しとばかりに口付ければ一生懸命に返してくれて、愛しくてたまらない。
限界、と燐が雪男をふり切って胸に顔をうずめるまで続いたそれの余韻を確かめて、ふっと口角が上がる。
「ねえ」
「なんだ」
「寝てたんじゃなかったの」
「…ああ」
寝てたけどお前が変だったから起きた
「普通、逆じゃない」
「なんでだ?」
「なんでって…」
「詰まるなら俺の勝ち」
「なにそれ」
どうもにやけてしまう顔を見られなくてよかった。
幸せすぎて怖いとはこういうことを言うのだろうか。
だとしたら、腕を伝ってくる温かい彼も、同じように思ってくれていると嬉しい。
「なあー、雪男」
「なに」
「治ったか」
「…ああ」
冷静さを欠くというより、根本的に兄に弱いのかもしれない。
「愛してるよ」
「は!?」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、お前はっ」
最愛の兄は、自分の言葉に慌て出す。予想通りの反応なのに嬉しいとは幸せであると、こういう時、雪男はひしと感じる。
燐は一通り考え、慌てた後、ふう、と一呼吸。
ぎゅう、と音がでるくらい抱きしめられたので、ぎゅう、と音がでるくらい抱きしめ返した。
誰よりも僕らしい君へ
(誰よりも君らしい僕が贈る)
***
ありきたりかもしれない
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