星探し
お、と夜空を見上げた燐が声を上げる。時刻は23時を回った、コンビニからの帰り道。
「今日は綺麗だな」
「そうだね、よく見える」
燐の声が弾む。釣られて雪男は微笑んだ。
寮への道のりに、少し、街灯が途切れる場所がある。危ないと言う人もいるだろうが、二人はこの場所が好きだった。
ここを通らない近道もあるが、こうして夜の買い物に出掛けた時には何も示し合わせる事はせずとも、散歩がてらに自然と足が向く。
そして星空を立ち止まって眺めるのだ。
今夜も同じ様に。
「雪男、北斗七星ってどれだ?」
毎回お決まりの質問。スッと腕を伸ばした。
「あれだよ」
「あー、あった!」
「いい加減覚えなよ…」
「お前が教えてくれるからいいんだよ」
「……不意打ちだ」
呟きは聞こえなかったらしい。燐は呆けた様に口を開けて夜空を眺めている。
してやられたなんて悔しい。気持ちを悟られないよう閉じ込める。
それから視線を同じく夜空に移し、さっきの北斗七星から曲線を描いて、見つけた。
「「スピカ」」
同時に呼ぶ、星の名。
くすぐったい気持ちが心を満たす。視線を隣に戻したらふい、と逸らされた。赤い耳朶がどうしようもなく愛らしくて。
「燐」
思わず口をついていた。肩が分かりやすく揺れる。この調子なら耳朶だけじゃなく顔一面を真っ赤にしているであろうに、もったいない。
「なっ!?なんで名前…!」
「仕返し?」
「何のだよ!!!」
「さて、何でしょう」
いい加減顔を見せて欲しくて、燐よりも一歩前に出る。
「帰るよ、燐」
「まじ名前やめろ…」
「じゃあ兄さん」
漸く見せてくれたのはどこか残念そうな表情で、彼は素直で素直じゃない。
一歩二歩。
再び歩き始めた二人の間には、繋がれた手の平。
どちらともなく指を絡めて、強く強く握った。
願わくばあの星のように。
*スピカ…おとめ座の一等星。連星(二つの星が一つに見える)。
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