銀色の世界に沈む4


ほんの出来心だった。
初めて見る銀世界が嬉しかったのもあったが、どこか兄がつまらなそうに見えて面白くなかったのかも知れない。
だから、ぼんやりと遠くを眺める兄の背後に忍び寄って、片手に握ったあまり固くない雪玉をその背中に投げつけたのだ。
すぐに頭を抱えて兄の反撃に備えたのだが、一向に来る気配はなく、おかしいと思って見遣れば、燐は斜め上を行った。
何の抵抗もなく立った体勢のまま、倒れた。


「兄さんっ」


びっくりして駆け寄る。
そのうち、雪男の声を聞き付け様子を見に来た獅郎らも飛び上がった。

積もり積もった柔らかな雪のおかげで怪我はなかったが、38℃の熱は出ていたのだった。


***


あほか。勝呂の呟きにはその場に居合わせた全員の気持ちが乗っかっていた。

結局、体温計が活躍するまでもなく腕を握って熱があるのがわかり、雪男の、それはそれは病み上がったばかりとは思えない程の怒鳴り声と説教によって、今度は燐が眠る番になった。
雪男の方はほとんど治っていたので、客人を無下には扱えないと兄と代わって家事に出た。現在は燐が作りかけていた夕飯を頂いている所である。


食卓を囲んだ面々の中、しえみが向かいに座る雪男に話し掛けた。

「ねえ、雪ちゃん、どうして燐に気がついたの?」

「え」


雪男は手を止めて、驚いたような顔をした。斜め遠めに座っていた志摩もはいはいと手を挙げて賛同。
いつの間にか皆がこちらを見る体勢になっていて困った。


「どうして、と言われても…なんとなく、おかしかったとしか。タオルが妙に乾いてたのが決定打とは言えますが」


寮にエアコンというものは存在せず、濡れタオルがあんな風に乾くのは室温と自分達の体温に関係する。
夏は近いがまだまだという今の季節に室温は考えにくく、だとしたら体温なのだが、だとしたら片面…体に当たっている面の方が乾くはず。
しかし、あのタオルは両面共に表面がうっすら乾いていた。

そこから、乾かしたのは燐の体温であると考えるのが自然だ。


「なんというか…やっぱり双子なんですねえ」

「あとは過去に前例があったりしますね」

「昔にもあったわけ…」


呆れる出雲と吹き出す一同。
だがしかし、皆が分かっていた。燐の無理はいつも優しさなのだと。
そして、皆が謝りたい気分にあった。


***


翌朝。
燐が目を覚ますと時計が指すのは遅刻ギリギリ。飛び起きた。
雪男は既に行ってしまったらしい、とんでもない弟だと悪態をつく。
身支度もそこそこに食堂に駆け込んでそして、燐は目を見開いた。
弁当箱が二つ。傍にはメモが一枚。


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おはよう。
兄さんの事だから風邪は治ってるよね。
でも心配だからギリギリまで寝かせておく事にします。ごめんなさい。
お弁当は昨日の夜、塾の皆と、それからフェレス卿が作ってくれたものです。
一つは朝ごはんなので授業の合間にでも食べて。

雪男

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