貴女にとって

それは

突然?
偶然?
自然?
必然?

私には決められません。

こうして4人で一緒にいられる

それで充分幸せなんだって思えるから。


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川沿いの獣道を高速で移動する足音が二つ。茂った雑草を掻き分け強引に進む人影と、その後ろから離されまいと必死に追いかける人影。

「本当にこっちで合ってんのか!?」

先を行く人が問う。

「合ってると思う!…多分」

「ちょ、今ボソッと多分つった!?」

「とにかく、下流に向かってそのまま先進んで!」

「あぁ、もう分かったよ!」

走る。ひたすら走る。進めば少しずつ道は岩肌を露出し始め、幾分かは走りやすくなった。が。

「なあ、嫌な予感がするんだけど…この先って」

川沿いとは言え、岩剥き出しに合わせて周囲から植物が徐々に減ってきていた。そして微かに聞こえる今までとは違う水流の音、極めつけは川の進行方向に先がないこと。

「思いっきり滝じゃねぇか!」

ベタなくらい全力で突っ込んでしまった。

「い、いいの!だって滝の下にあるんだから!」

もう目茶苦茶だ。ってことは飛べって言うのか。大体ちゃんと滝壺に着水出来る気がしない。下を覗けば地上が見えないし。前に聞いたことあるぞ、あまりに落差がありすぎて霧になるから滝壺が無い滝があるって。

「男のくせにビビってんのー?リオ兄ってば情けないなぁ…おりゃっ!」

「え?…ちょぉぉぉぁぁあ!?」

体が崖から乗り出し、重力に引き寄せられるがままに傾いてゆく。押した張本人も追って飛ぶ。

「それー!」

情けない悲鳴とはしゃぐ歓声が見事に反響しながら落下していく。速度は瞬く間に加速し滝と並列して落ちていく中、塊村を確認出来た。「あれかー!?」

「うんー!」

その村こそ、二人の目的地である。

しかし、気を抜いていたのが災いしてしまった。

「結構大きい村なん…っ!!!」

体が勢いよく叩きつけられ、水飛沫が派手に飛ぶ。滝壺に関しては杞憂で済んだものの、不意を突かれる形での衝撃は凄まじかった。意外と深く体がみるみる内に沈み込んでいくが、すぐに浮上を始め水面へ上がってゆく。ぐっしょり濡れて気持ちが悪い。一方はというと、気持ち良さそうに泳いでやがる。なんとも憎らしいが憎めない。全く、俺の矛盾もいいとこだ。

「レイ…お前村に着いたら覚えてろ…」

「やばっ…リオ兄ごめん…」

ま、締めるところはきっちりとな。

「にしても、降りたはいいがこれからどうするんだ?」

「そこの道を下ったらすぐだよ」

眼下に広がる林の奥、石段を降りた先に煉瓦造りの建物が並ぶ村が顔を覗かせる。何はともあれ、この濡れて大変なことになっている服をどうにかしなければ話にならない。こうも濡れてしまっていると荷物が身につけているものだけで良かったとつくづく思う、いや本当に。

ゆっくり滝壺から上がると、滝の上部を二人で見上げる。

「随分と高いところから飛んだもんだな」

「そだね、ここなら追ってこれないんじゃない?」

「そりゃあ、そうだろうけど…魔物から逃げるために滝をダイブするなんて思わなかったぞ…結構怖かったし」

「本当にヘタレだよね…じゃあ他に手はあったってわけ?咄嗟の判断したのはあたしなんだから感謝してよねっ」

「でた、ツンデレ」

「リオ兄!!」

ガンッ

「いってぇ!マジで痛いし…手加減してくれよ…」

毎度お馴染みの(身勝手な)鉄拳制裁。勘弁してくれ。

とりあえず、水の滴る服やら何やらを処理しなくては旅どころではない。ましてや今まで手ぶらで旅が出来ていたこと自体、特別なのだから。

「…で、ここ何処さ」

「分かってなかったの?もう…ここは風薫る谷って呼ばれてるヴィーヴル地方のフランシュって村だよっ」

「風、かぁ」

微風がリオとレイの周囲を空間を流れてゆく。今は春。その暖かな陽気と暖気を内包する風は不思議と二人の体を軽くした。それは体温の下がった体に染み渡るような暖かさだった。

ふと気づくと、日は既に真上から地平線へ吸い寄せられていた。

「じゃ、日が暮れる前にフランシュに行かなきゃな。って言ってもすぐなんだろ?」

「うん、一応この滝も村の一部の筈だから。楽しみだなぁ!ほら、リオ兄も早く来ないと置いて行っちゃうわよ!」

そう言って村へ続く石段へ向かいながら嬉しそうに短い黄金色のショートカットを風に乗せ、くるくると回ってこちらへ微笑んでみせる。とりあえず目のやり場に困るので自分が羽織っていた服を掛けてやり、一応年頃の少女なんだから、と忠告してやったら耳まで真っ赤にして…また殴りやがった。




村まであと少しといったところか、街道の上を少女が歩く。肩の下まで有るだろう若草色の長髪を左肩辺りで一本に束ねたサイドテールが成長の中に身を潜めた"幼さ"を感じさせる。丈の短いスカートを風で元気良く靡かせる可愛らしい姿には決して似合わぬ、特殊な形状をした白銀の胸当てと、体格や性別からは想像出来ない大きさの剣が腰部に吊されていた。納められている鞘は古びて色褪せてしまってはいるものの、表面からは時の経過による独特の風格を鋭く放っていた。

「先生はあそこに行けば情報が沢山あるって言ってたけど…本当かなぁ?」

早朝に出発してから既に半日以上が経過。半ば自暴自棄になりそうな気持ちをぐっと抑え、目の前にある目的地をひたすら目指す。

「とにかく!もしあの人なら…これきっと分かるよね」

袖に隠れていた左腕のそれに視線を落とす。8年という長い年月を経てもなお、煌びやかな装飾に変化は見られず、表面に刻まれた紋様は何処も欠けることなく動物を象っていた。

「あの時の…見つかるかな…」

翡翠色のバングルをくれた少年。私が力を手にするきっかけをくれた少年。そして、私の命を救ってくれた少年。覚えているのは短剣を操り、水を纏い、私より小さいことだけ。

救われた少女、アイリは密かに願う。この旅は私自身の目的だけではなく、貴方を捜す旅でもある。だから、彼に恩返しをするためにも見つけなければいけない。


――To be continued?


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