61

今ならまだ間に合うかも。でも。でも、でも……。
その場から動けなくなった。視線も、足元から移動しない。
周りから聞こえる声や音がやけにうるさく聞こえる。

1度、2度、3度、……。

震える携帯からの音はそれらにかき消されて聞こえないはずなのに。誰からか分かるから、何度も聞いたから、頭の中で曲が流れていた。

「何してんだよ」

突然の声に顔をあげる。けど、どんな顔をしていいのか分からなかった。

「早い、んだよ、」

「……悪い」

くしゃり。髪と髪の擦れる音が聞こえて、頭にぬくもり。

「もうはぐれんなよ?」

表情筋が、うまく働いているかなんて分かるわけなかった。自分では、笑顔のつもりでいたけれど。
肩を竦めて、おとなしくその背中を追いかけた。
<<>>

<<Retune?
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -