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「ちょっと、」
予想以上に近くにあった体に、一瞬驚いた。
「なに、」目だけでそう答えた。こっち、と親指で軽く示されて、先を歩く。
「ちょい行ってくる」
尚輝にそう伝えて、人ごみに隠れそうになっていた背中を追いかけた。
一度も後ろを振り向かないその背中に、だんだん腹が立って。
(なんでこっち見ないんだよ、)
(ちょっとくらい待ってくれたってさ、)
声にこそ出さなかったものの、心の中では文句ばかり言っていた。
追いかけ続けた足も、だんだん動きが重くなっていって。
(くそったれが)
止まるまで、そう時間はかからなかった。
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