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尚輝をちゃんと"恋人"として好きになれたわけではない。やっぱりまだまだ友達の延長線みたいにこのポジションではいるけど、いつまでも尚輝に甘えてばかりじゃ、いけないと思うから。

「これからは、」

ちゃんとキスしよう。そう言ってまたキスをした。
アイツの姿が瞼の裏に現れて、胸がずきんとしたけれど。
(これで、良いんだよ。……ね、)

「愛、」

アイツの代わりに現れた尚輝の目は、一直線に俺を見据えてて、覚悟しなきゃいけないと思った。
経験は少ないとは言え数回はしたことはあったけれど、男同士なんてのは初めてなわけで。未知の世界なわけで。
怖くないなんて嘘、吐くのも忘れるくらいに怖いけど、何度も触れていく内に、きっとこの恐怖心も薄れていくはずだから。

だから。

「震えてる」

「っ、」

鼻腔をくすぐる尚輝のにおいも、自分が震えていることも、言われて気づいた。
苦笑い、しか、でなかった。

「無理すんな、」

唇に触れるのは、指の腹。
いつもまっすぐで、何の迷いもないみたいな、キラキラした瞳が。今は微かに揺れている。感情の上に何かで蓋したみたいな、そんな曇った瞳が見下ろしていた。

(これで、良いんだよ、……ね?)
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