▼100 晩飯も食べ終えて、二人で洗い物して、風呂に入った。気をきかせた尚輝が、別々でいいと言ったから、別々で。 夜になっても、尚輝の両親は帰ってこない。 「尚輝、」 寒いくらいにクーラーの温度を下げて、でもそれでは肌寒いから、タオルケットにくるまって。 目の前には黒いシャツ。 「ん?」 昼間の暑さなんてどこに行ったのかと思うほど、ひんやりとした室内で、尚輝の手のひらがちょうどいい温度だ。 「……キス、しようか」 その動きが一瞬止まって、頭上から小さな笑いが聞こえた。きっとそれが返事。 額に暖かくて柔らかい唇が触れた。 「尚輝、」 それが俺たちのキスだった。 ……だった、んだ。 「ど、……っ、」 顔を離すと、状況を理解できていない尚輝がいて、なんだかおかしかった。 「い、や、笑いごとじゃ、」 いつもはどちらかと言えば、こうやって人を驚かすのは尚輝の方で。笑うのも尚輝の方で。 何のためらいもなく胸に顔をうずめたら、背中に腕が回って抱き締められる。 「お前、……どんだけ我慢してると思ってるんだよ……、」 耳元で呟かれた言葉に、抱き締め返した。"恋人"として、ちゃんとしたキスをしたのは今日が初めてで、これからの俺らのキスは額にする誤魔化しのキスじゃない。 <<Retune? |