▼98 尚輝の家は、両親が共に働いている。だから、尚輝は家事全般をこなすことができるのだと、中学の頃に聞いた。 手慣れた様子でフライパンを操る尚輝の隣で、幅のバラバラなキュウリが転がっていった。 (均等になんて切れるわけねぇ!) 尚輝の作る料理はおいしい。俺もこれほど作れたらとは思うけど、普段はまったく作らないから、上達なんてするわけもなくて。 それでも、尚輝の手伝いをしてるうちに少しは上達した。 (あの頃はひどかったもんな、) 思い出して思わず笑いが小さく漏れた。 「愛、こしょう取って、」 菜箸を握る尚輝の左手に小さなガラス瓶を渡した。青い蓋を器用に外して、目には見えない白い粒子が落ちては熱で分解されて絡まる。 「ごめん、蓋しといて」 差し出された瓶は首がもげたままで、包丁を置いて首を付けた。 元の位置に置かれたこしょうが首を傾げて見つめている中、再び包丁を握った。不定期な乾いた音が響く。 <<Retune? |