▼92 思わず目線が反れた。明るくなくて良かった。自覚してすぐ苦笑いをした。 アイツは相変わらず赤をまとっている。 「吸う?」 そう言って差し出されたのは黒を基調とした緑のデザインの箱。真新しい、それ。 「変えたんだ?」 そっと手に取って、パッケージを見る。同じタール数とはいえ、やはり味は違うのだろう。 「なんとなく、な」 ちょっとした好奇心で、まだ窮屈そうに身を寄せ合っている1人をつまみ出した。 「もっとインポなんじゃねぇの、」 口にくわえただけで分かる、きついメンソール。慣れない刺激。 箱の代わりに出てきた火で少しだけ頭を焦がして、草を燃やし始めた。想像通りの味が、舌の上から喉を通った。 「そんくらいで丁度いいんだよ」 チンっ、 よく通る高音と共に火は消えて、弧を描いた唇は再び闇に飲まれた。 「バカ言え、」 冗談を言い合えるこの関係に久しぶりに触れて、胸の真ん中が意に反して満たされていくのが分かる。 その意味を理解している自分にも、抑えようとしても抑えられない自分にも、腹が立つ。 視線の先にあるこの距離は変わらない。 <<Retune? |