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音を立てないように気をつけながら、三歩程前に進む。完全に外に出ると、夜なのに生ぬるい風が吹いていた。
ドアの隙間から漏れる光ひとつではまだ、周りの様子はよく見えない。当然、人影も。
足音と同様、音を立てないようドアを閉めた。

「最近、ほんとおかしいよ……」

妙にはっきりと声が聞こえた。
無意識に、自然に、耳が音を拾おうと必死に神経を活発にしているのが分かる。

「関係ないだろ、」

どこかで分かっていて、でも久しぶりで、不意で。ドキリとした。
間違えるわけない、アイツの声。

「関係ないわけないじゃん!」

さっきの呟くような声とは違って、張った声。想到怒っているようだ。
その次の一言に、俺はその場から動けなくなる。

「彼女だもん!」

(あぁ、)
そりゃ、そうだわな。

胸の真ん中に、急に氷を落とされたみたいな苦しさを覚えた。

「……、」

風に乗ってにおい慣れたマルボロの煙が鼻腔を刺激した。呟いたらしい声は、ここまで届いてこない。
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