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エレベーターで行ける最上階から、非常階段を上ると、形だけの鍵がかかっているドアがある。
(え、)
南京錠はいつもロックされていない。……なのに。
(なんでだろう)
間抜けに開かれた南京錠は床の隅に置かれていた。
それはアイツがいつも置く場所で。ドキリとした。まだ来てるんだ。そう思って複雑な気持ちになる自分に少し、また腹が立った。

ドアに手をかけて、力を入れようとした瞬間、筋肉は反射的に動きを止めた。

「――!」

女の子の声が聞こえたからだ。
(こんなとこ、来るんだ)
ふっと力が抜けて、ドアに体重を少しかける。ドアの軋む低い音と共に、生ぬるい風が頬を撫でた。

屋上のライトも、夜の8時になってしまえば消えてしまって。目に飛び込んでくる星と夜景だけがやけに明るい。
とはいえ、屋上は真っ暗で。人がどこにいるなんて、どんな人がいるなんて、何人いるなんて、分からなかった。

「――、……――てんだよ、」

(!)

聞き間違いであれ。無意識に願ったのはそれで、脳からの伝達物質は確実に元来た道へ引き返させるよう筋肉へ命令している。
それを抑えているのは、汚い自分だ。

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