▼87 (でも……。) 「寂しくなった?」 耳のすぐ横に息がかかる。優しく、笑ってる。 「……うん」 (でも、) 「もうちょっとだから、待っててな、」 一瞬ふわっとにおいが漂って、それが遠ざかる。髪の毛がばさばさと鳴って、更に遠ざかった。 尚輝は優しい。 それは本当に、優しい。 (なにか、違う。) 再び机に向かった背中を見て、不意に涙が出そうになった。今時そんなの、女の子でもなかなかいないだろうに。 純な女の子みたいに胸が締め付けられて、恋愛初心者でもないはずなのに恋愛で悩んで。泣きそうになって。 でもここで泣くわけにはいかない。尚輝に心配かける。 今の恋人は、尚輝だ。 応えられずにいる自分に腹が立った。 尚輝はあんなにも、こんな俺を好きでいてくれてる。尚輝でいいんだ。アイツじゃなくて。 あの漫画のヒロインや主人公みたいに、守るべきは、……アイツじゃないんだ。 <<Retune? |