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また次の巻を探し始めて、右の山を開拓したその下の方に埋まっている姿を見つけだした。
机の上で続くシャーペンの動く音を聞きながら漫画を読み進めていく。愛する人のため必死になるヒロイン。その内にその姿に惹かれ、強くなろうと修行を始めると決めた主人公の姿。そのどちらも、自分にはないものだと思った。

そして頭の隅でアイツを思い浮かべていることに気づく。
(今は違うだろ、)
テキストに向かう背中を見て、目を閉じた。
(今は、)

「尚輝、」

邪魔しては悪いかとも思ったが、今しか言えない気がした。今だから、言える気がした。

「ハグ、して」

小さなことだけれど。
尚輝は嬉しそうに笑って、こっちへ来るなり俺の背中に腕を回した。
小さなことだけれど。今こうすることによって、頭の中に根付くアイツを排除しようと必死だった。

(尚輝、だ。)

普段から香水を付けている尚輝は、服からそのにおいがする。有名ブランドの、独特のにおい。
中学から変わらないそのにおいは直感的に尚輝だと思わせる。今はそれが安心できる。
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