夢の終わり

夢から引きずり出されるようにして、目が覚めた。
つい今しがたのことなのに、何を見ていたか、その雰囲気しか思い出せない。心地よかったような、そんな雰囲気。

「起こした?」

金属の擦れ合う音、堅い何かがぶつかる音。
その中心から、間抜けな声と共に聞こえた声。

同棲を始めて約一年。
この恋が、まんねり化することなく続いたのは、自分でもすごいことだと思う。

「いや、勝手に」

ちょっとした騒音なんかじゃ目が覚めない。
そんなことは知っているはずなのに、小さな気配りが出来る。ずっと続いてる理由なのかも。なんて、ノロケ。

「何してんの、」

眠い。目を擦りながら、フライパン片手に黒い物体を動かしているのが目に入ってきた。

「目玉焼き作ってんの」

思考回路がうまく働いてくれていないようだ。見たことない物体を、目玉焼きと聞き間違えた。

「なんて?」

「だーかーらー、目玉焼き! 見て分かるだろ?」

これは聞き間違いではないらしい。残念でならない。
たかが目玉焼き一つにこの騒音はなんだ。そのキッチンの汚さはなんだ。目が冴えた。
……。
やっぱり前言撤回だ。もう一度寝たい。
いや、違う。
これは夢だ、そうに違いない。
誰かそう思わせてくれ!

「……金輪際キッチンに立たないでくれ。頼むから」

焦げなんて食えたもんじゃない。

「せっかくこの俺が作ってやった目玉焼きが食べれないっていうのか!」

「うん。」

聞いたことあるようなフレーズには、即答。当たり前。
むしろ食えるのかと問いたい。

「……おい、」

無視。名前呼ばれなきゃ応えてやらん。これは俺の主義だ。

「おい、レイってば、」

「なに、」

腕まくりして手を洗おうとしていた俺。振り向けば不意打ち。
一瞬だが確実に、キス、された。
きっと彼としてはなんらかの意味があるのだろう。
おはようのキスなのか、それとも黒い物体作ったことへの謝罪のつもりなのか。何の意味だか分からないけれど。

ああ、そういえば。
さっき見た夢もコイツとのタイミングミスなキスだった気が。
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