届かない

昼休み。
チャイムの鳴った後は皆が各々集まって食事を始める。
ただ、違った事は一つ。俺の隣には君がいない。食べる気を失い、屋上へ続く階段を登る。
あの日から、今日でちょうど2ヶ月。重たい鉄のドアに、入学したての頃作った合鍵を差し込む。

「遅かったじゃないか。」

眩しい光の中、黒い影がゆっくり振り向く。
もうしばらく会っていない姿に、胸の鼓動が早まったのをはっきりと感じた。

「……悪いな、授業が遅れたんだ。」

階段へ響くドアの音を聞きながら、後ろ手で鍵を閉めた。
久しぶりに聞く声を、存在を、独り占めする為に。

「会いたかったのに、酷いじゃないか。」

苦笑いを見た。あの頃と変わらない、見慣れた表情だ。
会いたかったのは、俺も同じだ。

「嘘吐き。」

何が、と視線を上げた。ほんのちょっと、怒ったみたいな顔があった。

「俺ら、よく会ってたじゃんか。」

顔が触れるギリギリの位置に、君がいた。

「どこで?」

冷えた君の鼻先が触れ合う。こうして会うのは2ヶ月振りなのに。

「ココ。」

氷みたいに冷えた手が胸に触れて、愛想笑いに似た、あの独特の笑みが目の前を塞ぐ。
それでも、時折君のその先が透けていて……まだ陽射しの照り付ける都会が、ぼんやりと目に映った。

「――……。」

不覚にも、泣きそうになった。
世界で一番愛しい、目の前の人物の名前を呼ぶ。腕の中の君は、俺が見たかった笑みを見せて、氷が溶けたみたいに消えてしまった。

君が言ったみたいに、俺らはいつでも会える。
目を閉じて君を想えば……ほら、最期の最後にみた笑顔の君が。
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