「ありがと。」

「どーいたしまして。」

手元に戻ってきたのは、手を濡らさないよう気をつけながら巻いた割りにはきれいに巻けている傘。
圭明と反対側の腕にかける。そして気づいたのはこの作戦が失敗に終わったってことだ。
(次の作戦練らなきゃな、)
そんなことを考えながら、話す内容はなんてことない日常会話をしながら帰路を歩いていく。

互いの勝手知ったるや幼なじみ。
(俺って今まで圭明のこと貶めれたことないんじゃね……?)
よくよく記憶を掘り下げていっても、そんな記憶は片手で数えれる程度しか思い浮かばなかった。
その事実に気づいた今、絶対貶めてやる! って気持ちが強くなってきた。
絶対に絶対だ! 覚悟しとけよ、キヨくん!
(って意気込んでも、何も思いつかないんだよなぁ……。)

「何一人で百面相してんの、」

まさかコイツに、アニメでしか聞いたことない言葉を言われるとは思ってもなかった!
思わず視線を上げて顔をまともに見てしまう。

「え、いや、顔の体操……?」

我ながらヘタな言い訳、本日二度目。
覗き込むように見られていた顔が、呆れた顔へと変化するその瞬間を見た。「バカだなぁ、」なんて声が頭上から降ってくる。
圭明がそのままほっといてくれたら、そんなこと言わずに済んだのに! ってことにしておこう。

「そういや、ヒロが読んでたマンガの新刊買ったけど、持って帰る?」

気がつけば、圭明の家が少し先に見えるほどまで帰路を進んでいたようだ。

「あー……今日雨だし、いいや。」

真面目な俺のカバンにはマンガ一冊すら入る余裕がなかったはず。

「また今度貸して?」

「分かった。傘、どうする?」

家まで送るけど。それはとてもありがたいお話で。

「そうしてくれるとありがたい!」

圭明の家を過ぎてすぐの角を右に曲がって、少し歩けば俺の家。道で見ればちょっと遠い気がしなくもないが、実際は圭明の家の後ろが俺の家なだけだったりする。
昔はこの短い道すら家で、「なんで隣じゃないの」って親に泣きながら言ったような……。昔の記憶だ。
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