冷たいコンクリートからの動かない衝動がその背中に吸収されて、亡骸とは反対側に、人肌。
手が突っ込まれたポケットから飛び出したのは違う銘柄のタバコ。ではなく。

「いる?」

持てとばかりに差し出された包み紙。
即答すると、今まで何度見たか分からない、あの顔。

「なんやねん、」

開いた包み紙の中には半透明なピンクのキャンディ。

「人の親切心、無碍にしたら怒られんで」

言葉とキャンディが舌の上で転がって、いまいちうまく聞こえない。
かろうじて拾えた言葉を繋ぎ合せて、なんとか文章に。

「誰にやねん、」

「言うただけやし」

なんやそれ。心の中で呟いただけのはずだったのに。どうやらそれは空気を振動させていたらしく。
キャンディで濡れた唇は不自然に突き出されていた。それを舌先でなぞるように舐めると、更に艶やかさを増す。

「あんっま……」

「ヤニくさ、」

何度も感触を楽しんだ後の顔は、お互い、苦笑いだった。

「ならちゅーすんなや」

「ちゅーしてきたん自分やん、」

「だって自分、普段飴ちゃん食べやんやん」

「もうなんでもええやん、」

聞き慣れた、ハスキーボイス。
不意打ちの後に見えたシルエットの頭部は相変わらず薄い茶色で。

「……どあほ」

自覚できるほど熱くなった頬を包むように撫でられて、もう一度唇を重ね合わせる。

「好きなんやからさ」

逆行になって見えない表情は、いつもと違って満足そうなんだろう。
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