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「ケースケー! 帰ろ?」

派手な音と共に、名前を呼ばれる。教室の扉が何度も左右にぶれて、ゆっくりとその幅を狭めていった。
「もう少し静かに開けろよ」昨日言ったばかりの言葉は、見事に無視された。
(学習能力のないやつめ、)

「ん、」

狭い通路をすり抜けて扉まで向かう。鞄が誰かの机に当たって、少しだけずれたが直さなかった。問題ないだろう。
俺を迎えて笑顔を一つ。レイは俺より少し先を歩きだした。

「な、今日部屋行っていいだろ?」

「は? なんで、」

「なんでって……今日何の日だと思ってんだよ、」

なんのために一緒に帰ろうって言ったと思ってんだよ。まるで子供のようなふくれっ面で、不機嫌なのを全面に出していた。
(もしかして、帰れないって、そう言っていたのか……?)
さっき見た校庭での光景を思い出した。内心、唇の端を上げる。

「ああ、」

「だから行く!」

すごくすごく可愛らしい笑顔で、すごくすごく可愛らしい唇で、その言葉を言わないでください。犯罪的な意味に取っちゃうから、俺。いかがわしい想像しちゃったじゃないか。
(いかん、)

「なーあ、」

校門をくぐってすぐ脇。数歩先を振り返って、後ろ向きに歩きながら、

「忘れてない、よな?」

「お前さ、さっきから唐突すぎんぞ、」

さっきから、言ってる言葉の趣旨がまったく分からない。

「今日っ! 何の日か、ちゃんと覚えてるよな!?」

立ち止まって、ついさっき見た表情よりずっと不機嫌さを増した顔。有無を言わせない口調。目も真剣そのもので。
レイが今日を忘れてるのかそうでないのか。俺の思ってるのと同じ日なのか、そうでないのか。分からなくて、言葉を濁す。

「じゃあ、……」

ね? ってレイさん。
右側にはまだ、学校の塀が見下ろしている。そんなところで。

「レイ、……ここ、」

「わーってる! けど今日は、」

「一周年記念な、」
人がいなくなった一瞬、代弁して突き出された唇にそっとキスしてやった。
俺たちの間にはこれ以上は必要ない。これからもよろしく、とか、今日は手加減しないから、とか。胸の中でしか言えないものすべては唇越しに伝わっていることを信じて。
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