イライラ、イライラ。

「――でさ、ヤバくね?」

イライラ、イライラ。

教室の窓から見下ろした校庭には、女数人に囲まれて、男が一人。
その笑顔は何も分かっていないようにしか思えなかった。今日という、一年の中でも特別な日を。

「ヤバいのはお前のその記憶力のなさだろ、」

色が抜けすぎて、遠目でもその痛み具合の分かる金髪に向かって呟いた。ほんとうに極小さく。
(俺もヤバいかな、独り言なんて……。)
片手で開いた本にため息を落とした。

「ケースケー!」

(あ、え、なんでバレた?)
焦る内心とは反面、冷静を装って、今気づいたかのように。
「おう、」唇だけ動かして、片手を軽く上げる。

「今からそっち行くー! からー、一緒に帰ろー!」

そんなこと言うから、ほら。女たちはどれも似た顔を見合わせて、焦っているのが遠くからでも分かる。
その内の一人と目が合えば、思いついた顔をして口を開く。

「ケースケくーん! 私たちも一緒に帰っていーいー?」

(やっぱりね。)
聞き慣れない高い声の周りから、期待のこもった、複数の目。正直、怖い。
レイはモテる。制服のスカートをぎりぎりまで上げて、明るい色に染めた髪をきれいに巻いた、いわゆるギャルに。
俺はその「友達」ってだけの存在だから、たいていは同じ展開になる。
俺の返事に気をよくした女たちは、嬉しそうに笑う。
(バカだなぁ、)
あの集団に向けてなのか、その中心にいるレイに向けてなのか。
ため息の先ではでも、いつもと少し違う風景が広がっていて。ここからじゃ、何を言っているのかまったく聞こえなかった。何だろうか。
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