▼1 イライラ、イライラ。 「――でさ、ヤバくね?」 イライラ、イライラ。 教室の窓から見下ろした校庭には、女数人に囲まれて、男が一人。 その笑顔は何も分かっていないようにしか思えなかった。今日という、一年の中でも特別な日を。 「ヤバいのはお前のその記憶力のなさだろ、」 色が抜けすぎて、遠目でもその痛み具合の分かる金髪に向かって呟いた。ほんとうに極小さく。 (俺もヤバいかな、独り言なんて……。) 片手で開いた本にため息を落とした。 「ケースケー!」 (あ、え、なんでバレた?) 焦る内心とは反面、冷静を装って、今気づいたかのように。 「おう、」唇だけ動かして、片手を軽く上げる。 「今からそっち行くー! からー、一緒に帰ろー!」 そんなこと言うから、ほら。女たちはどれも似た顔を見合わせて、焦っているのが遠くからでも分かる。 その内の一人と目が合えば、思いついた顔をして口を開く。 「ケースケくーん! 私たちも一緒に帰っていーいー?」 (やっぱりね。) 聞き慣れない高い声の周りから、期待のこもった、複数の目。正直、怖い。 レイはモテる。制服のスカートをぎりぎりまで上げて、明るい色に染めた髪をきれいに巻いた、いわゆるギャルに。 俺はその「友達」ってだけの存在だから、たいていは同じ展開になる。 俺の返事に気をよくした女たちは、嬉しそうに笑う。 (バカだなぁ、) あの集団に向けてなのか、その中心にいるレイに向けてなのか。 ため息の先ではでも、いつもと少し違う風景が広がっていて。ここからじゃ、何を言っているのかまったく聞こえなかった。何だろうか。 <<Retune? |