覚悟を決めて、ドアノブに手をかける。若干冷たい自分の手よりも更に冷たい、金属の感触。
息を吸って、吐く。その直前。

「なぁ、」

妙に明るい髪色は、地毛だとなんとなく分かる。それでも陽に当たった毛束は染めているのかと勘違いするほどに色素が薄くて。同じ制服を着ているのがなんだか不自然に思えた。

「ヤニ臭いねん」

「あ?」

不機嫌そうに寄せられた眉根。同じ表情の自分が瞳に写って自分を睨んでいる。
第一印象は、お互いに最悪だった。


【20禁】


少しずつ、体温が奪ばわれていく気がする。
紫煙の出なくなったタバコの亡骸が数本、散らばっている。そのせいか。

「ヤニ臭いねん」

聞き慣れた、ハスキーボイス。
自然の恵みは、その声と共に消えた。
シルエットの頭部は相変わらず薄い茶色で。相変わらず毒舌で。

「関係ないやん」

「あるし」

逆光になって見えない表情は、いつかと同じように不機嫌そうなんだろう。

「なんで、」

ゆっくりと、だが確実に、強さを増してくる刺激に目を細める。でもそれは一瞬で。
気づけば刺激なんて一切なくて。唇に慣れた感触があった。

「あるやろ?」

動く雲と、動かない太陽と。
ようやっと細めずに見えたのは、してやったり、そう書かれた顔。

「……知らんがな」

溜息と共に返した呆れ顔。
でもそれを彼が見ることはなく。
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