「……嫉、妬、くらい、」

口を何度か開閉させたあと、ようやっと出た声は消え入りそうなほど小さかった。
それでも幸也の耳には届いたようで、その言葉を噛み締めるように千歳から目を離さなかった。

「俺さ、」

言い出したものの、続きの言葉が出てこない。頭の中から一つずつ丁寧に言葉を探していく。

「なんだよ」

千歳は本から顔を上げることができないでいる。
言いにくいことを言ったにも関わらず、何の反応もなかったからだ。自分でも分かるくらいに熱くなった顔を見られたくもなかった。

「千歳が付き合ってくれるつったとき、すげー嬉しかった」

正座していた脚を崩して、千歳と並んでベッドに背中を預けた。

「でもさ……お前、なんにもしねぇんだもん」

立てた片膝に肘を乗せて、力無い指先に視線を落とした。ため息混じりの声だった。

「……、」

幸也が消さなかったテレビから、キャスターが昼に起こった事件を読み上げている声が部屋に広がった。

「なんにもって、」

本に並んだ文字を追いかけるだけの余裕は戻ってきたようだ。それでも、すらすらと映像化されていたストーリーが今では断片すら思い浮かばない。

「嫉妬とか、そーゆーの。」

「それはっ、」

思わず本から顔を上げ隣を見た。

「……、してるけど……言葉にしないだけで、」

「それに、」

幸也の声は千歳の言葉とかぶった。
一度息を大きく吸って、頭の中でまとまった言葉たちに苦笑いした。

「好きで付き合ってんじゃねぇのかなって。ノリとか、流れとか、そーゆーのかなって」

愛しそうに目を細めて千歳の髪を指で梳く。痛んでいない黒い髪は、さらさらと指の隙間からこぼれ落ちた。

「ノリとか流れとかで男と付き合うほど飢えてねぇよ。」

千歳は文字の世界を閉じた。
ぱらぱらと落ちてはまた梳かれる自らの髪を視界の端で捉えながら、膝の上に置かれた本を大切そうに撫でた。

「ちゃんと……」
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