「お前、浮気しただろ。」

千歳が急に言い出した。

「してなーい」

幸也はゲームをしている。コントローラーのボタンを押して、テレビの中を動く敵を的確に倒していく。

「見たんだけど」

お互いに上の空で相手の話を聞いている。
千歳は相変わらず本に並んだ文字の羅列を追いかけながら言った。その意識の半分は、2日前に見た幸也の姿を思い出していた。

カフェの窓から見た、幸也の歩いてくる姿。
その隣にははやりのエアリーカットが似合う、可愛らしい小さな女の子が並んでいた。2人が一緒に歩く姿は楽しそうで、それはそれは似合いのカップルに見えた。
そのとき舌の上で変わったオレンジジュースの味を思い出して無意識に顔をしかめた。

「だって」

倒した敵の落としたアイテムを拾い、セーブポイントへキャラを走らせる。慣れた動作はもはや面倒なのか、無駄にボタンを連打する。

「千歳、淡泊なんだもん。」

コントローラーをその場に置き、ゲーム機本体の電源を落として千歳の方を向いた。

「本心知りたくって」

悪びれもしない笑顔。ようやっと活字から目を離した千歳はそれを見て、ため息を一つ。

「俺のどこが淡泊なんだよ」

言ったときには視線は既に手元に戻っていた。
隣から幸也も同じように文字を目で追いかけた。だが一行読む前に千歳の指が次のページをめくる。幸也の頭にはストーリーの断片すら入ってこない。

「えっと……たまにしか笑わないー、照れないー、たまにしか好きって言わないー」

声に出しながら指折り数え、その指で構ってほしそうに千歳の頬を突つく。
千歳は眉根を寄せ煩わしそうにその手を払った。

「……かわいげがない」

不服そうに唇を尖らせ細めた目の先には1ミリも表情を変えない千歳の横顔。
ふいと千歳の目が動いた。

「なら別れろよ」

いつもと変わらず無表情な視線。
いつもと変わらず無表情な声音。
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