▼6 「もうしねェって、誓ってやるから」 もう一度、今度は強く抱きしめられて、耳に息がかかる。真剣な声。 (ああ、そっか。) 真剣な中にある、妙に優しい声。俺が惚れた理由。きっと他の人は知らない、俺だけ知ってる声。 「次したら、絶対別れるからな?」 「絶対しない」 柔らかな唇の感触が何度も降ってくる。神様どうか、コイツの浮気性がこれっきり治りますように。 そんな俺たちに玄関から視線を投げてくる少し大きなマリア像に、全身でそう願った。 今日も、飛び出すように部屋を出る。 右手の中には見慣れた鍵。もうじき冬に突入するというこの寒い季節に、タンクトップ一枚。 だが関係ない。行き先は、5歩もあればたどり着ける。 薄い壁を隔てて聞こえてくる声にイライラしていた。 なんだって。なんだってアイツは、いつもこうも…! 「てンめェ! ざけんな、別れる!」 昼間の小さなマンションの5階、今日も俺の怒声が響いた。 そうしてまた、俺たちの一日が始まる。 <<Retune? |