「もうしねェって、誓ってやるから」

もう一度、今度は強く抱きしめられて、耳に息がかかる。真剣な声。
(ああ、そっか。)
真剣な中にある、妙に優しい声。俺が惚れた理由。きっと他の人は知らない、俺だけ知ってる声。

「次したら、絶対別れるからな?」

「絶対しない」

柔らかな唇の感触が何度も降ってくる。神様どうか、コイツの浮気性がこれっきり治りますように。
そんな俺たちに玄関から視線を投げてくる少し大きなマリア像に、全身でそう願った。






















今日も、飛び出すように部屋を出る。
右手の中には見慣れた鍵。もうじき冬に突入するというこの寒い季節に、タンクトップ一枚。
だが関係ない。行き先は、5歩もあればたどり着ける。

薄い壁を隔てて聞こえてくる声にイライラしていた。
なんだって。なんだってアイツは、いつもこうも…!

「てンめェ! ざけんな、別れる!」

昼間の小さなマンションの5階、今日も俺の怒声が響いた。
そうしてまた、俺たちの一日が始まる。
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