キミのクセ JS

レンジローバーの角ばった黒い車体に対向車線からのライトが当たってはそのフォルムを掠ってすれ違う。今ので何度目か。
どちらも口を開くことはない。回らない暖房の音だけが車内に響き渡って数十分はかかっているはずだ。
乗り慣れたいつもの目線よりほんの少し高い位置から、走り去っていくライトを目で追いかけては話題をいくつも口の中で潰していた。

「……こないだ、どうだったよ、」

暖房にやられてるんではないかと思った喉からは、意外と普段と変わらない声が出てきた。

「……こないだって、」

城生は俺よりも擦れた声をしていた。自分でも気づいたのか、低い声で咳払いを一つ。

「要と、」

要は、城生の恋人だ。

「別に。」

要は、俺が好きな人でもある。
冷たい声に、じっとその横顔を見つめた。
城生は、俺が要を好きだってことを知っている。アイツらが付き合って二ヶ月後、自分から言い出した。

「……あいつん家行って、」

その時城生は目を細めて、「そうか、」と呟いただけだった。

「あいつがバイトから帰ってくるとき、」

その癖はきっと要も気づいていない。感情を隠すときの小さな癖の一つで、本人すらも気づいていなかったりする。
俺だけが知っている癖。……知ってても嬉しくないけど。

「足音だけで分かって、『犬みたい』って言われた。」

(なんのノロケだよ)
そう思うと苦笑いしか出なかった。

「『犬よりオオカミだけど』つって襲おうとしたら失敗した」

(なんのノロケだよ)
お互い要の話になると、同じことを思うんだと思う。

「そりゃそうだろ、」

「まぁな、」

恋敵といえばいがみ合ってるようなイメージだけれど。なんだかんだで俺たちは仲良し。こうなればもう、暖房の音も気にならない。
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