熱帯夜 JK

帰宅したことを告げる一声が耳に入る。一般的な相槌を返して、リモコンのスイッチを押した。手元から鳴った機械音から少し遅れて、機械が休息へ入る音が扉の開く音と重なった。

「つーか寒っ! なにこれ、寒っ!」

玄関とこの部屋とでは、扉一枚が申し訳程度に存在しているだけだ。それでも、その存在感の薄い扉は冷気をこの部屋に押しとどめるには役立っているらしい。
リモコンはローテーブルの上に再び置かれる。今度はその顔に何も映さずに。

「だから消しただろ、」

「まぁ、ね、」

コンビニの袋を投げるようにして間に置いて、長い溜め息と共に隣へ沈みこむ。
小さなビニールの中から、目当てのタバコを取り出してその封を切った。あと数ヶ月のうちに値上がりするらしいが、いまいち実感が湧かない。
(中途半端だよな……。)
出している会社によってどれだけ値上がりするかが変わるらしい。差額が生じれば生じるだけ、円は海外へ流れてしまうだろうに、その危険性を某たばこ産業は分かっていないのだろうか。

「消すと暑いね」

軽いタバコの箱と、リモコンと。交差するように手を伸ばした。

「俺は別に、」

片手で用済みの箱を握りつぶしながら最後の一本に火を近づけた。
スイッチを切ったときと同じ機械音が二回連続で鳴って、中のファンを回すような音を立てながら、機械は動き出す。
えー、なんて不満気な声を出すものの、表情は嬉しそうで。
(何、)

「ちょっと寒いくらいが、ちょうどいいかな、って」

リモコンは床に落ちるし、袋は間で小さくなって行き場をなくしてしまうし、まだ白いタバコは灰色の自分を捨てる場所から遠ざけられてしまうし。いきなり何なんだとは、思うけど。
(悪くは、ないよな)
とりあえず、吸い終わったらベッドに行こう。
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