べた惚れ、残念! KS

「入れて、」

傘立てに伸ばした手は一本だった。
なるほど、と自己解決して承諾の返事をした。男なら傘なしで帰れ、と言うには酷な降水量だ。

傘を開いて半分差し出す。肩が濡れるのは仕方ない。
形だけの礼は受け流す。

「あのさ、」

校舎から出て駅までの道は長くもないが短くもない。無言でも別段苦にはならない距離で、口を開いたのは俺の方だ。

「なぁに?」

身長差の上目遣い。
首を傾げるのと同時に髪が揺れる。

「あのな、」

今日、と決めた覚悟は何度も先延ばしにされたけれど、やっぱり、今日こそ言いたい。

「いや、あのな、」

女に言うのとは大幅に違う。覚悟の差も、その後の反応も、いろいろ考えれば違いすぎる、けど。やっぱり言いたい。

「……あの、さ、」

「なんなの」

声に刺がある。ちく、と刺さるけど、まだ覚悟は揺らがない。

「ホ、……同性愛って、どう思う、」

ママチャリに乗ってすれ違ったおばさんが一瞬俺を見た気がする。
(俺だってどうかと思うよ、)
男同士で相合い傘して、会話がそれだなんて。

「人それぞれでしょ、おれは別に、」

「何、好きな人でもできた?」

確実にほっとしたのが自分でも分かって、でもすぐに核心を突かれて更に緊張した。誰か俺に恋愛初心者マークを貼ってくれ!
(いや、初心者じゃないけど!)

「誰、誰、」

視線が痛い。

「……カナ。」

「かな? 誰?」

「お前だよ、」

(ジュース飲みてぇ、)
完全に緊張のせいだ。喉がカラカラだ。

「え、おれ? おれ彼氏いるよ?」

待て待て待て、え? なんて言った?
思わず隣をガン見する。

「彼氏?」

「うん」

何てことない、とでも言うかのようにさらっとした返事。

「まじか、」

「あ、でも、別にセフレならいいと思う!」

カナには毎度驚かされるが、今日ほど驚いた日はないと思う。

「彼氏も許してくれるんじゃないかな、浮気じゃないし。」

名案じゃない? 向けられた目は見慣れないほどキラキラしていた。
(彼氏も可哀想に、)
でも好きな子とやれるチャンスを逃す気はない!
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