▼べた惚れ、残念! KS 「入れて、」 傘立てに伸ばした手は一本だった。 なるほど、と自己解決して承諾の返事をした。男なら傘なしで帰れ、と言うには酷な降水量だ。 傘を開いて半分差し出す。肩が濡れるのは仕方ない。 形だけの礼は受け流す。 「あのさ、」 校舎から出て駅までの道は長くもないが短くもない。無言でも別段苦にはならない距離で、口を開いたのは俺の方だ。 「なぁに?」 身長差の上目遣い。 首を傾げるのと同時に髪が揺れる。 「あのな、」 今日、と決めた覚悟は何度も先延ばしにされたけれど、やっぱり、今日こそ言いたい。 「いや、あのな、」 女に言うのとは大幅に違う。覚悟の差も、その後の反応も、いろいろ考えれば違いすぎる、けど。やっぱり言いたい。 「……あの、さ、」 「なんなの」 声に刺がある。ちく、と刺さるけど、まだ覚悟は揺らがない。 「ホ、……同性愛って、どう思う、」 ママチャリに乗ってすれ違ったおばさんが一瞬俺を見た気がする。 (俺だってどうかと思うよ、) 男同士で相合い傘して、会話がそれだなんて。 「人それぞれでしょ、おれは別に、」 「何、好きな人でもできた?」 確実にほっとしたのが自分でも分かって、でもすぐに核心を突かれて更に緊張した。誰か俺に恋愛初心者マークを貼ってくれ! (いや、初心者じゃないけど!) 「誰、誰、」 視線が痛い。 「……カナ。」 「かな? 誰?」 「お前だよ、」 (ジュース飲みてぇ、) 完全に緊張のせいだ。喉がカラカラだ。 「え、おれ? おれ彼氏いるよ?」 待て待て待て、え? なんて言った? 思わず隣をガン見する。 「彼氏?」 「うん」 何てことない、とでも言うかのようにさらっとした返事。 「まじか、」 「あ、でも、別にセフレならいいと思う!」 カナには毎度驚かされるが、今日ほど驚いた日はないと思う。 「彼氏も許してくれるんじゃないかな、浮気じゃないし。」 名案じゃない? 向けられた目は見慣れないほどキラキラしていた。 (彼氏も可哀想に、) でも好きな子とやれるチャンスを逃す気はない! <<Retune? |