▼電車 KS 平日の朝から夕方は俺のもの。 「うっす、」 「うい」 朝はそれから始まる。学生の挨拶なんて、そんなもの。 何てことない会話をして、授業受けて、飯の時間。初めは二人っきりだなんて慣れなくて、どうしたらいいか分からなくて、どぎまぎしてた。 「今日やきそば、」 「黙って食え」 屋上で昼飯なんて青春、できたら良かったんだけど。あいにくこの学校は屋上への立ち入り禁止で。 仕方ないから中庭のベンチで向かい合って、喋りながら食う。 自然に食えるまでになった。 「ごち、」 それからまた午後の授業を受けて、そんで解散。同じ服着た人の群れと一緒に駅に向かう。 「一緒に帰ろう、」 なんて今はもう言わなくても、隣を歩いてる。それが当たり前で、でもそれを実感する度に胸があったまる。 「な、」 「なに、」 学生の帰宅ラッシュで座れなかった。窓から風景が後ろに流れるのを見ながら声をかけた。 「今日帰んの、」 広告の文字を読みながら、いつもと同じ調子の返事が返ってくる。 「……帰んなよ」 男同士でこんな会話おかしいなんて自覚してる。 窓と顔の隙間に見えた、耳に顔近づけて小さな声で言った。 「い、っ!」 動けないのがこんなに悔しいなんて! 思いきり踏まれた右足がひどく痛む。 (本気じゃねぇか……!) 「今日デートだって、昼言っただろ」 声に怒りは感じられなかった。 「……デートの前に、」 一発どう? 一度攻められた耳は二度目も無防備。体の後ろに手を回して、割れ目に反って指を這わせながら言った。 「……痴漢プレイ、」 「要がいいならそれでも、」 邪魔な鞄を肩から下ろして、左手で腰を、シャツの中に右手を滑り込ませて考えてる要を見た。 「バレないように、ね?」 (きた、) 自分の顔が緩むのが分かった。 「それは要次第」 相変わらず無防備な耳に舌を這わせれば、体が小刻みに震えるのが伝わってきた。耳元で、必死に息を殺しているのもバレバレだ。 アイツがいない今だけ、要は俺のもの。 <<Retune? |