クリスマス JKS

(なんで、)
ちゃんと言ったはずだ。クリスマスは城生と過ごすと。
この状況を理解するには、手元にある情報が少なすぎる。思わず頭を抱えたくなる状況に、代わって口から溜め息が漏れた。

(なんでこうなの……。)

円形のテーブルに三人。右には城生、左には重玄。隣同士で座っているはずの二人の距離は遠く、自分との距離はえらく狭い。
そして互いに頭の上で睨み合っている。引きつった笑みを顔に貼り付けて。
決して小さくはないテーブルの真ん中に置かれたケーキのロウソクだけが穏やかに笑いかけてくれている。

「……食べよう、」

(仲良くすればいいのに)
仲がいいって聞いていたはずなのに。現実は違った。
先立って城生がケーキを一切れ、おれの皿に置いた。フルーツが一番乗ってある、狙っていたピースだ。

「よく分かってるじゃん」

嬉しくなって城生にそう言った。

「彼氏だし、な」

城生は重玄を見ながら言った。器用に片目を細めながら。
それから自分の皿にもケーキを一切れ。大きくも小さくもない、普通のピース。
そして腰を下ろした。おれに不意打ちのキスをして。
重玄の皿に何も乗ってないのは、城生の策略だ。そして自分はそんな城生の恋人。重玄はただのセフレ。だから自分も重玄の皿にケーキを乗せはしなかった。
でも、良心は痛む。

「なんで重玄に分けてあげないの、」

何でもないような顔をして城生を見る重玄と、上機嫌でおれを見てた城生。
そんな城生にそう言うと、そっぽを向いて小さく呟いた。

「……そんなやつ、ここにいねぇし」

(子どもか、)
何度目か分からないため息。

「じゃあ何で連れてきたの」

「決まっちゃったことだからね、いいんだよ。」

城生はそっぽ向いたままで。代わりに重玄が答えた。"決まっちゃったこと"とは?

「じゃんけん。」

「コイツが一発勝負だっつって、」

「結局相子で、」

「三人で。ってなった」

(息ぴったり!)
感心したのは内緒にして。納得できなくても一応相槌だけは打った。
喋りながらケーキを皿に移す重玄は器用だ。

「何でじゃんけん」

「コイツが『どうしても』って、引き下がらねぇから」

顔がニヤついてる。重玄の醜態を晒して嘲笑ってやろうという魂胆がまる見え。
こんなとき、城生はまだ子どもだなと思う。そしてそれがかわいく、愛しく思う。

「俺だってカナとクリスマス過ごしたいじゃん」

ほんとならセックスだってしたかったのに。
そう言われて何も言えなくなったのはおれ。ちょっとそれもいいな、と思ってしまった自分に後悔。
(このままじゃ、せっかくのクリスマスだっていうのにセックスなしか……。)

「バカかお前は」

「なんでさ、カナだって俺とする方が気持ちいいから俺とやるんだし」

「俺とのセックスには愛がある」

「愛より気持ちいい方がいいに決まってる。」

「バカか」

「セックスの相性て大事じゃん? それだけで別れるカップルもいるし」

「愛されてねぇ奴が言えるセリフか? それに、俺らは相性悪いわけじゃねぇし。もし! 万が一! 別れたところで、お前が要と付き合うことはないね、」

「はぁ? なんでお前に分かんだよ。俺とカナが付き合う可能性だって」

「ないね。」

「おまっ……!」

(あ、そっか、)

「……三人でしたらいいんじゃん」

二人して黙った。おれの方を見ている。
(あれ、なんか変なこと言った?)
名案を提示したつもりだったんだけれど。それにしても間抜けな顔だ。

「……な、にを?」

「セックス」

二人してため息。同じタイミングでグラスを手に取った。

「この話は辞めよう、」

当然だとばかりにもう一度水を流し込む重玄。
何だかんだでこの二人は、やっぱり仲良しなんだと思う。きっとセックスの相性だって。
夜が楽しみだ。
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