▼クリスマス JKS (なんで、) ちゃんと言ったはずだ。クリスマスは城生と過ごすと。 この状況を理解するには、手元にある情報が少なすぎる。思わず頭を抱えたくなる状況に、代わって口から溜め息が漏れた。 (なんでこうなの……。) 円形のテーブルに三人。右には城生、左には重玄。隣同士で座っているはずの二人の距離は遠く、自分との距離はえらく狭い。 そして互いに頭の上で睨み合っている。引きつった笑みを顔に貼り付けて。 決して小さくはないテーブルの真ん中に置かれたケーキのロウソクだけが穏やかに笑いかけてくれている。 「……食べよう、」 (仲良くすればいいのに) 仲がいいって聞いていたはずなのに。現実は違った。 先立って城生がケーキを一切れ、おれの皿に置いた。フルーツが一番乗ってある、狙っていたピースだ。 「よく分かってるじゃん」 嬉しくなって城生にそう言った。 「彼氏だし、な」 城生は重玄を見ながら言った。器用に片目を細めながら。 それから自分の皿にもケーキを一切れ。大きくも小さくもない、普通のピース。 そして腰を下ろした。おれに不意打ちのキスをして。 重玄の皿に何も乗ってないのは、城生の策略だ。そして自分はそんな城生の恋人。重玄はただのセフレ。だから自分も重玄の皿にケーキを乗せはしなかった。 でも、良心は痛む。 「なんで重玄に分けてあげないの、」 何でもないような顔をして城生を見る重玄と、上機嫌でおれを見てた城生。 そんな城生にそう言うと、そっぽを向いて小さく呟いた。 「……そんなやつ、ここにいねぇし」 (子どもか、) 何度目か分からないため息。 「じゃあ何で連れてきたの」 「決まっちゃったことだからね、いいんだよ。」 城生はそっぽ向いたままで。代わりに重玄が答えた。"決まっちゃったこと"とは? 「じゃんけん。」 「コイツが一発勝負だっつって、」 「結局相子で、」 「三人で。ってなった」 (息ぴったり!) 感心したのは内緒にして。納得できなくても一応相槌だけは打った。 喋りながらケーキを皿に移す重玄は器用だ。 「何でじゃんけん」 「コイツが『どうしても』って、引き下がらねぇから」 顔がニヤついてる。重玄の醜態を晒して嘲笑ってやろうという魂胆がまる見え。 こんなとき、城生はまだ子どもだなと思う。そしてそれがかわいく、愛しく思う。 「俺だってカナとクリスマス過ごしたいじゃん」 ほんとならセックスだってしたかったのに。 そう言われて何も言えなくなったのはおれ。ちょっとそれもいいな、と思ってしまった自分に後悔。 (このままじゃ、せっかくのクリスマスだっていうのにセックスなしか……。) 「バカかお前は」 「なんでさ、カナだって俺とする方が気持ちいいから俺とやるんだし」 「俺とのセックスには愛がある」 「愛より気持ちいい方がいいに決まってる。」 「バカか」 「セックスの相性て大事じゃん? それだけで別れるカップルもいるし」 「愛されてねぇ奴が言えるセリフか? それに、俺らは相性悪いわけじゃねぇし。もし! 万が一! 別れたところで、お前が要と付き合うことはないね、」 「はぁ? なんでお前に分かんだよ。俺とカナが付き合う可能性だって」 「ないね。」 「おまっ……!」 (あ、そっか、) 「……三人でしたらいいんじゃん」 二人して黙った。おれの方を見ている。 (あれ、なんか変なこと言った?) 名案を提示したつもりだったんだけれど。それにしても間抜けな顔だ。 「……な、にを?」 「セックス」 二人してため息。同じタイミングでグラスを手に取った。 「この話は辞めよう、」 当然だとばかりにもう一度水を流し込む重玄。 何だかんだでこの二人は、やっぱり仲良しなんだと思う。きっとセックスの相性だって。 夜が楽しみだ。 <<Retune? |