▼4 一瞬、何が起きたか分からなかった。 大きな音と、出かかった言葉が、耳に入ってきた。 「お母さん、冷静に聞いてください。」 母の座っていたイスが、転がっている。 看護士が慌てた顔をして、何か言っているようだ。煩わしそうに顔を歪めた男も、口を動かしている。 「……――ときに、頭を打ったという可能性が、」 ふと気づいたときには、声を出していた。 「母さん、」 仕方ないよ。 母は一瞬白眼の比率を高めて、涙腺をゆるめた。壊れたみたいに、閉め方を忘れたみたいに。 「検査したいので、しばらく入院していただきます。」 事務的な声は、母をなぐさめようだなんて一切思っていないことがよく分かった。 「あとで、ちょっといいかな」 それとは違って、向けられた声には何かが潜んでいるように思えた。 不安と、ほんの少しの恐怖。それらを煽るまいと、抑えられているような、そんな。 付加疑問文だ。そう気づいたのは、白衣の背中が遠のく瞬間だった。 看護士たちは母をなだめながらあとを追うように病室を出て、僕は1人になった。 <<Retune? |