母はそれに気づかない。ベッドから出てカーテンを閉めるほど、長い時間でもないだろう。

目を伏せるしか、なかった。

複数の足音と、病室の扉が開かれる音を聞いたときは、内心救われた気になった。

ベッドにやってきた男は、名前を名乗りもせず左目の前で手を動かす。相変わらず、何も見えない。
男の後ろで看護士の1人がカーテンを閉めているのが見えた。やっと、同室者の視線から解放された。

「どこか痛いところは?」

ポケットから取り出したペンライトを左目に当てながら、感情のない声を聞いた。ない、短く答える。
揺れる光の刺激が、ときどきまぶしい。世界の半分は相変わらず、何も見えない。こんなにまぶしいのに。

蛍光灯を頼りに左目を覗きこむ医者の両目。僕と違って、はっきり見える両目。
また、光を見ることはできるのか。
すがるように見ていた。

「……残念ながら、」

そう言う声に感情は見られなくて。
僕はやっぱり、目を伏せるしかなかった。
できることなら、大声で否定したかった。嘘だ、治るはずだ、と。できなかったのは、何よりも自分がそれを理解していたからだろう。
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