言葉の内容を理解した母は、一瞬目を見開いて、慌ててナースコールを押した。
何度も「本当に見えないの」と左目の前に手をかざす。看護士が来るまで続いた。

「どうしました?」

薄いカーテンをゆっくり開けて、看護士が入ってくる。

「目が、目が見えないって、」

母はしどろもどろになりながら伝えた。
動転する彼女に「先生を呼んできますから、」なだめるように何度もイスに座らせながら、いたって冷静に言った。

ヒステリックを起こした母をなだめるのはそう簡単なものではない。それは息子の僕がよく知っていることで。
すみません、そんな意味を込めて頭を下げた。ついでに心の中でエールを送っておく。

ちょっと待っててくださいね。ようやっと落ち着いた母にそう残して、看護士は部屋を出て行った。開かれたままのカーテンの向こう側から、何人もの目がちらりちらり、僕を見ていた。
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