▼1 去年より長い夏休みが終わって、久しぶりの講義。 一般教養だかなんだか。 興味のない講義はあくびを殺せないほどに退屈極まりないもので。 白髪混じりの髪とはミスマッチな長身の講師が、白いチョークで文字を書きながら淡々と説明し続ける声。それを子守歌に爆睡している生徒、多数。 何度目か分からないあくびのあと、手元の携帯に目をやると、ゲーム画面がひどく歪んで見えた。 (え、) 理解するより先に、視界は暗転した。 真っ白な、天井。 体が、ひとつひとつと覚醒していくのがよく分かった。視覚、聴覚、嗅覚、感覚、味覚……。 そうして覚えた、違和感。 何度まばたきしても拭い去れない。 「母さん、」 握られた左手と、驚いて顔を上げる母の顔。心配そうな、顔。 (ああ、きっと、更に心配させるんだろうな。) でもさすがに、これは。 「……見えないんだ、左目」 <<Retune? |