青峰は時々何を考えているか分からない。付き合ってから結構経つけれど、単純そうに見えて意外とミステリアスだったりする。ふと気付くと無表情で俺のことをじっと見つめていたり、かと思えばいきなり「お前、最高」とか言ってそれはもう機嫌が良さそうに笑ったりする。俺からしたら訳が分からなくて、気になって仕方ないことも多い。だけどいくら問い掛けてみても、「気にすんな」などと短い言葉で片付けられてしまう。
「ほんと、何なんだアイツ…」
「だーれのこと言ってんだー?」
「ぎゃああっ」
驚いた。それはもう驚いた。久々に部活が休みの放課後、誰もいない屋上でぼーっと空を見上げているはずだったのに、突然間延びしたような声が聞こえたかと思えば、目の前にたった今考えていた人物の顔が表れたのだから。つか、何でここに青峰が。
「これ、不法侵入っつーんじゃ」
「うるせぇよ、細けぇこと気にすんな」
面倒臭そうにひらひらと手を振る青峰を見て、それ以上は何も言えなくなってしまった。
「つかお前、暇なら連絡しろっつの。…あ、勿論電話な。情熱的に心込めて『会いたい』って…」
「だぁぁっうるせー!!」
叫ぶ俺を見ながら、青峰は面白そうに笑ってくる。何だ、からかってんのか。こうやって青峰のペースにすぐ引き込まれてしまうのが悔しい。意図的にやってるってんなら、尚更だ。
立ち上がって青峰を見る。俺、今相当不機嫌そうな顔してんだろうな、なんて思いつつ、距離を離してフェンスの方へ寄った。
「?何、何か怒ってんのか?」
「……別に」
思わず素っ気ない返事をしてしまう。何だよオレ、ガキかよ。すると青峰は何も言わなくなってしまった。暫しの沈黙。こいつが喋らないと静かだな…じゃなくて。少し不安になって青峰の方に視線を向ける。彼が腹を押さえて膝をついたのと同時に。
「……は!?青峰!?」
予想すらしない展開に、慌てて駆け寄る。苦しそうな呻き声を漏らしながら俯いている。嘘だろ、青峰が。こんな状態の青峰にさっきみたいな態度取っちまうなんて。後悔、罪悪感、不安が押し寄せた。
「……火神ィ……」
「青峰!しっかりしろ!」
痛みを堪えようとして苦しげに歪んだ顔を此方に向けて青峰は――にやりと笑んだ。
「……へ……っ」
意味が分からなかった。ぽかんとしているオレをよそに、先程の調子に戻った青峰がゆっくりと顔を近付ける。
「そうだな……、火神がキスしてくれたら治るかもしんねー」
思いもしない一言。場の深刻な空気が一変して、体の力が抜けた。そして気が付いたら青峰目掛けて拳を飛ばしていた。
「がっ…、いっ…てぇ!何すんだ!」
「こっちの台詞だアホ峰!んな下心丸出しの頼みなんて聞けるか!」
しかもさっきまでのシリアスな雰囲気はどうしたんだ。すげー焦ったのに、すげー心配したのに。
「そうやっていっつもからかいやがって…オレで遊んで楽しんでんだろ…!」
本気で好きだって思ってんのは、オレだけだったのか。そう思ったら情けなくも泣きそうになって、青峰に背を向けた。オレ、こんなすぐ泣く奴だったっけ。いや、青峰への気持ちが、いつの間にかオレの中でこんなに大きいものになっていたからだ。――なんて、この時始めて気付いて、余計振り向けなくなった。
「……別に遊んでんじゃねーよバ火神」
不意に聞こえた声と共に、背後から腕を回されて抱き締められた。ああ、どうしてだろう。つい先程まで腹立たしく思っていた青峰にただ触れられるだけで、怒りとか悲しさとかを消すくらいの愛しさが湧き起こるのだ。
「傷付けたんなら、その……悪ィ。けどな」
素直に謝る青峰を珍しく思っていると、腕を引かれて向き直る形にさせられる。視線が絡む。真っ直ぐで、見透かされそうな眼差しに、心臓が跳ねる。
「全部、愛故…なんだけどよ」
そう言って照れたように頬を掻く青峰が目を逸らす。オレの顔も、恐らく真っ赤だろう。だってこんなに、熱い。
オレを抱き止めた青峰は、小さく息を吐くといつの間にか普段の調子に戻っていた。
「それを下心だの何だの…」
「わ…分かりにくい愛情表現するからだろ!」
「んぁ?でも下心っつーのは間違いねーかも」
「は……?」
「そもそもお前相手にそういう事考えないっつー方がおかしい。こんな可愛い奴に……」
にやりと笑う青峰に、熱い顔が更に熱くなって。沸騰しそうってこういうことか。
「おま……可愛いとか言うな!」
「照れてんのかよ、可愛いな」
「言うなっつってんだろ、気持ち悪ぃ…!」
「けど、そんな俺が好きなんだろ?」
自信に満ちた表情と言葉。ずるいと思う。オレの気持ちなんてとっくに知ってるクセに。
「大我」
急に名前を呼ばれて、どきりとした。何かと思っていると、青峰は自分の唇を人差し指で示した。意味が分からず瞬きしていると、青峰がまたにやりと笑った。こいつ、また何か企んでる。
「さっきしてくんなかっただろ、キス」
「……え」
「キスして、お前から」
何を言い出すかと思えば。まるで当然のことのように涼しげな顔をしている青峰に、オレは拒否ろうとした。けど、オレが弱いって分かっててあの目でじっと見て来るものだから、ノーという選択肢は簡単に消えてしまう。ほんとにずるい。
意を決してゆっくり顔を近付けていく。が、何故かいつまで経っても青峰は目を閉じる気配がない。それどころか、ほぼ瞬きもせずに此方を見ている。何だよこれ、すげー恥ずかしいんだけど。一度した決心が揺らいでしまい、そのまま視線を彷徨わせていると、青峰が笑った。
「お前、ほんと最高……」

俺がお前にすること言うことの全ての裏に、愛があんだよバーカ。

















2013.1.7
約束提出用。ありがとうございました。
prev next
back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -