「新一、お願いがあるんだけどっ!」

リビングで至福のときを過ごしていれば、ソファ近くの床に座り込んだ相手が常にない深刻そうな声音で話し掛けてきた。

「何だ?いきなり改まって」

普段なら読書中に話し掛けられても基本無視だが、何時もと違う様子に顔を上げる。
と、深刻そうだったわりに、拍子抜けするような言葉が発せられた。

「あのね、痛み止めが欲しいんだけど」
「は?ンなもん薬箱に入ってんだろ?勝手に漁れよ」

態々読書を中断してまで聞いてやったと言うのに、なにを聞いてきやがる。
僅か眉をしかめて適当に了承してやれば、此方の下降した機嫌を察知したのか、勢い良く首を振られた。

「違うんだよ!普通の市販薬なんかじゃないんだ」

市販薬じゃないって、ウチに市販薬以外の痛み止めなんてあっただろうか?
むしろ、市販薬ですらあやしいと言うのに。まあ、多分快斗が補充なりしていそうだが。

「?痛み止め代わりに甘いものでも食いたいってことか?」

ともあれ、相手の言わんとする意味が解らない為、とりあえず無難にそれっぽい意見を尋ねてみる。と、今度も首を振られる。

「甘味も魅力だけど、今回は違う」

ますます解からない。

「??」
「モルヒネの10倍の鎮痛効果があるらしいんだけどね」

首を傾げていれば、そんな事を言われた。
モルヒネの10倍?そんなモノが我が家にあった記憶がない。

「そんなもんウチにあったか?」
「あるんだよ!」

ますますもって首を捻りながら尋ねれば、今度は勢い良く頷かれた。

「ふーん?まぁ、あるなら良いんじゃね?使えば」
「ホント?くれるの?」
「まぁ別にウチにあるもんならやるよ。勝手に使え」

やたらキラキラしながら確認されたのが若干気になったが、イチイチ突っ込むのも面倒なので適当に頷いた。
頷いたら、次のヤツの行動は早かった。

「わーい!じゃぁ遠慮なくっ……ぐっ!ぃ、いいカウンターだ……」
ピョコンと擬音が付き添うに立ち上がると、そのまま両腕拡げて飛びかかってきやがるじゃねぇか。
とりあえず無防備な腹に一発ストレートを見舞っておく。
蹲る相手に冷ややかな目線を向けながら、呆れた溜め息しか出ない。

「いいカウンターじゃねぇよ。いきなり何すんだ」
「だって、新一にもちゃんと了承取ったじゃない」

一応言い分があるならば、聞いてやらないこともない。が、万年頭春にはそのような気遣いは無用だったらしい。
斜め45°な返事が返ってきた。

「何のだよ」
「え?だからキスの」
「は?」

もう既に呆れより苛立ちが勝りそうだ。
何だコイツ。
それでもイラッとしながらとうとう突っ込んだ質問への答えに、間抜けな声が漏れる。

「あのね、キスにはモルヒネの10倍の鎮痛効果があるらしいんだ。だからちょうだいって言ったら、新一了承したでしょ?くれるって言ったでしょ?探偵が嘘何てつかないよね?」
「いや、俺が使えって言ったのはあくまで痛み止めだから。だいたい、痛み止めイコール、キスだなんて一言も言ってねぇじゃねぇか。そんなヤツ相手に嘘吐くも吐かないもねぇだろ」此方の間抜け声に被せるように何か言ってきた。畳み掛けるように言ってくるが、普通にオカシイ。
何をバカな論法繰り広げてくるのか、普段は頭良いハズなのにとことんアホだなコイツ。

「いいや!ある!!内容聞かなかったのは新一だし、聞かないまま頷いたのも新一なんだから、非はそちらにあるハズだ!」

溜め息吐き出しつつヤツのアホッぷりを指摘してやったのに、尚も言い募りあまつさえ思い切り此方を指差してきやがるのにカチンときた。
いや、俺も導火線短い自覚はある。
しかし読書を中断してまで聞いてやった内容が余りに余りで、尚且ヤツのアホッぷりに苛立たずにいられるだろうか。否、無理だ。
と言うわけで、反撃させてイタダキマス。

「……じゃぁ一応聞いてやる。何処が痛ぇんだ?」
「マジで!?ええー?えっと…あっ!腹!腹が痛いの!!」

180度態度を変えて、ニッコリ笑顔付きで尋ねてやれば、何も考えていなかったのが丸分かりの答え。
てか、普段の勘の鋭さだとかは何処に置き去りにしてきた。
こんなのに警察機構が翻弄されてるかと思うと、憐れみより同情を禁じ得ない。が、それは良いとして。

「よぅし。腹だな」

返ってきた答えに、益々笑顔で頷いてやると、漸く異変に気付いたらしい快斗が慌て出した。

「ん?アレ?何か新一君笑顔が怖いよ?てか、何で拳鳴らしてるのかなぁー…?」
「ん?気にすんな?腹が(今から殴られて)痛ぇんだろ?」

ソファから立ち上がり、にじり寄りながら拳を鳴らす。
いきなり殴って手なんか痛めたくねぇしな。さっきは殴ったけど。

「いやいや、気にするよ!何か今間に何か入ったもの!殴る的な事が聞こえたもの!」
「ぁ?空耳だろ?ほら、痛み止め欲しいんだろ?(フルボッコにした後)やるからこっち来いよ」

ちょくちょく挟む副音声を聞き取って、慌てて静止しようとするが、残念、もう遅い。
じりじりと後退る相手を、一歩一歩壁際に追い詰めていく。

「ぁ、やー、何か、痛くなくなった、かな?も、もう平気ー」

悪足掻きとばかりに回復を訴えてきたが知ったこっちゃねえ。むしろ知ってたしな。

「何言ってんだ?モルヒネ10倍の鎮痛効果何てもん欲しがるほど痛かったんだろ?治ったと思って油断するのが一番危ないんだぜ?」
「いやいや、自分の体は自分がよく判ってるから!もう大丈夫―…っぎゃぁぁぁぁっっ!ごめんなさいごめんなさいっ!調子こいてすいまっせんでしたぁぁぁぁっっ!!」

壁に背をついて逃げ場をなくしたヤツを見下ろしながら、止めとばかりに小首を傾げ。

響き渡った叫び声は、確実に近所迷惑だろう。
お隣への謝罪は明日快斗に行かせるとして。
とりあえず、人をおちょくった罰は甘んじて受けろや。






床に沈んでほとほとと嘆く快斗を見下ろし、屈み込めば、口端に曰く鎮痛剤を落してやる。


――――――――――


んんぅ?
なんか、しばらく書かずに放置していたら着地地点を見失いました…。
ついでに書き方も見失いまし、た…orz


まぁ何が言いたいかってーと、ツンデレ萌えぇぇぇっっ!!



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