暗闇の中ズルズルと何かが這い回る音が響く。
それは毎度聞き慣れた音で、ソレの正体も理解している自分の意識はその場から逃げたがっているのに、横たわる身体は指先すら動かせない。
そうしてる間にも、ズルズルと這う音は近付いてきて。あぁ、またか。と、思う。
身体近くを這い回っていた音は、足許から重量を感じさせながら這い上ってきて。
動かない身体はソレを見ることはできないものの、ナニかは知っていた。

また、アレが来る。

ズルリと腹を越え胸元で止まったソレは、鎌首を持たせ俺を覗き込む。口からはシュルシュルと空気を吐くような音と共に赤く先の割れた細長い舌が出入りしている。
此方を舐めるような視線を向けてくるのは、真っ白い蛇だ。
知らず、カチカチと歯が鳴る。
此から自分の身に起こることを知っているから。

嫌だ、と思う。ただ、思ったところでどうにもならない。
目の前の蛇は、持ち上げていた頭を動かし、そのまま口内へと侵入し始めた。
ズルズル、と。ほの冷たく柔らかく、ザラザラとした感触が自身の口から、喉を通り気管を過ぎて腹まで入ってゆく。

『・・・んぅ・・・ふっ』

終わりの見えないその感触は、俺が眼を覚ますまで続く。
嫌悪しか浮かばないが、何時もの事だ。
口内をいっぱいにされ、喉奥への異物感と腹まで犯されるその感触にえずくものの、明確な音になるわけはない。

早く、はやく、はやく。

毎度なかなか訪れない目覚めを頭の片隅で必死に願いながら、ふとこれがすべて収まってしまったらどうなるのだろうと思う。
終わりのみえない蛇の肢体が、自分の腹の中にすべて・・・。
考えて、ゾクリとした。背筋をゾワゾワとした言いようのない感覚が駆け巡る。

『んぁ、ぅ・・・』

嫌だ、いやだ。

出した言葉は、呻きにしかならず。
首すら振れない自分の身体に、目尻が熱くなる。
ボロボロと、伝った涙が耳まで垂れる感触がキモチワルイ。



「名探偵っ!!」
「ぅあっ!?」

体がびくりと跳ね上がる。
眼をあけた先には、見慣れた顔が歪んで見えた。
酷く重い身体を無理矢理動かし、溜まった涙を拭おうとした手は目の前の相手に掴まれ、代わりのように相手の指が米神から目じりへと撫でてゆく。
酷く暖かく感じるそれをそのままに、そう言えばと思う。

「オメェ、何で居るんだ?」

溜まっていた涙も拭われ、開けた視界に何度か瞬き尋ねてみれば、ガックリと項垂れられた。

いえね確かに送りましょうかと聞いたのはこちらですけどねだからってあんな何処の要塞とも知れない罠掻い潜って家まで運んだって言うのに第一声がそれとか別に感謝してくれってわけじゃないですけどもっとこう他に何か言いようがあっても良いんじゃないかと思わないでもないんですが・・・。

項垂れた相手から、またもなんだか何処で息継ぎしてるんだかわからない言葉がつらつらと聞こえてくる。
コイツのこの喋り方は、これが通常なのだろうか。
とはいえ、言っている事ももっともではある。

「そうだな、ありがとう。で、何で居るんだ?」

お礼もなしにいきなり問いかけるのは、確かに不躾だったなと思い、まずはお礼を言ってみる。で、聞いてみた。
こちらの言葉にちらりと視線を送ってきた相手は、盛大な溜息をつく。
何が不満だ。

まぁ、良いですけどね。なんかもう、諦めました。

溜息交じりに吐き出された言葉は、今度は普通のしゃべり方だ。
普通に喋れるなら最初からそうしてくれれば良いのに。
聞いてるほうが無駄に息苦しいんだ。

「えぇと、とりあえず何で居るかということですが、一番の理由としては名探偵が私のマント握り締めたまま離して下さらなかったからですね」

それ、とばかりに指差されながら告げられた言葉に、指先を辿る様にして見れば、確かに右手にしっかりと握り締められたままの真っ白い布。

「あとは、何だかうなされてたので見てました」

確かにこれでは帰れないかと、考えた矢先に続いた言葉に、思わず握ったままだった右手を相手の腹にめり込ませた。
呻き声とともにベッドに倒れ込んできた相手から、ゴロリと寝返りをうって避ける。

ぁ、身体動かせるようになってるな。




――――――――――

ナルコ4話目です。
ちょっと短いめかもですが、次を考えるとこの辺で切らないとなので。


次もなるべく早めに書けたら良いなぁ。



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