格好良い高杉さんは存在しません。


――――――――――



高杉と喧嘩した。


けど、俺は微塵も悪くなんかない。

もともとは、それこそ赤ん坊の頃から今に至るまで付き合いのある相手が、高校に入るくらいから妙に俺の事を避けだしたから。
避けると言うか、別の予定を入れる事が増えた。
そのせいで、GWは結局大半一人で家にいたし(1日は何とかとっつかまえて一緒に映画見た)、毎週末も今までならどちらかの部屋に入り浸りだったのがなくなって、正直暇だった。
だったら他の奴と遊んだりしたら良いだろうって話なんだけど、どーゆー訳か大概みんな予定があったり、たまに遊びの予定を組んでも当日に親がどうとか、親戚がどうとか、兎に角ドタキャンされることが多い。
最初、俺だけハブられてんのかとか思ったけど、普段学校ではバカ騒ぎするし、別にそーゆーわけでもないらしい。

そんなわけで、薔薇色高校生活のハズが、何だかんだ色褪せてる俺と違って。女の子取っ替え引っ替え、遊んでると言うより、日々致してると噂に名高い俺の幼なじみ様に愚痴った所、逆ギレされたのが一週間前。
お前は良いよな、とか。俺だって遊びたい、とか。あと、ずっと一緒だったのがいきなり遊んでくんなくなったから、それも言った。
俺と遊ぶより女の子と遊ぶ方が楽しいだろーからな、とか。何かそんなこと。
言ったら、いきなり逆ギレですよ。

俺の気持ちもしらねぇで、とか。お前の為に離れてんだろ、とか。
訳の分からない事まくし立てられて、しかも俺が悪いみたいに言われて。
流石に温厚な銀さんだって、頭にくるってもんですよ。

売り言葉に買い言葉。

『大っ嫌いだ!』

っつってぶん殴って、走って逃げて…。

それ以降口聞いてません。


流石に殴ったのは不味かったかなー…とか思わないでもないけど、しょうがないじゃない。
こっちだって頭に来てたんだから。

大体、俺悪くないよね?
構ってくんなくなったのは向こうだし。別に俺が頼んだわけでもなく、勝手に離れてったのだって向こうだし。ヤリチンみたいな噂が流れる程、女の子と遊んでるのだって向こうだし!
それに対してちょっと愚痴っただけじゃん。
それを逆ギレっておかしくない?こっちが悪いっておかしくない?
…まぁ、俺も殴っちゃったけど……。
いやいや、でも俺悪くないよね?殴られることしたの向こうだよね?
そうだよ。銀さん別に悪くないもの!

って事で、謝ってくるまで無視ですよこのやろー。
別に、高杉と口聞けなくったって寂しくないからね!



「……で、散々強がって結局寂しいのだろう?」

今まで愚痴を聞いてくれてたもう一人の幼なじみ。
ヅラがため息混じりに口を開いた。

「………だって、こんだけ話してねぇの初めてだもん…しかもあいつ、謝ってもこねぇし…」

高杉が謝ってきたら、直ぐに許してやるつもりでいたのに、予想が外れて一週間も口を聞かないままでいる。
今まで喧嘩らしい喧嘩をしたことがないから(大抵俺が怒ってあいつがあしらって、何かうまいこと収まってた)仲直りの仕方なんてのもわからない。
いや、謝れば良いんだとは思う。殴ったし。
けど、俺だけが悪いんじゃないと思えば、プライドと言うか意地というか。こっちから謝るのも癪に障る。
けど……

「…大っ嫌いって言ったのがダメかなぁ?それとも殴ったの?…ヅラぁ…ずぅーっとこのままだったらどうしよぅ…俺、高杉に嫌われちゃったかなぁ…」

「ヅラじゃない、桂だ。と言うか、泣くな。大丈夫だ、奴がそれ位でお前を嫌うわけがなかろう」

謝ってこないのは、俺の事を嫌いになったからかと、嫌な想像が頭に浮かべばつい泣き言が漏れるのに、ヅラが呆れたような声を出す。

「…けど……」

そんなヅラの言葉も、ネガティブ思考に陥り気味の俺には浮上の要素には足りない。

「まったく。そうまで気になるのなら、お前から謝りに行けば良かろう」

「それはヤダ!」

ぶつぶつと、キノコ制作に勤しむ俺の様子に、やはり呆れたように提案したヅラの一言には、勢い良く顔を上げて拒否る。

だって、冗談じゃない。
俺は(ちょこっとしか)悪くないのだし、向こうが謝って然るべきなのにこっちから謝りになんて行ってやるか!
てか、1週間も経ってて今更謝りにとか、格好悪いにも程がある。
しかも、もし謝りに行ってみろ。いつもの高飛車な態度で鼻で笑われるのが想像できちゃうもの!

「だから、ぜぇーったい!こっちから謝るのはヤダ!」

まくし立てるように言いつのり、ぶんぶんと首を振る。

「…では、奴が謝りにくるまで待つが良いよ。ただ、いい加減愚痴を聞いてやるのも飽きたからな、今日で最後にしろよ。こちらとて、優しさのゲージはとっくにエンプティを振り切っているのだ」

一通り俺の拒絶を聞いた後で、いい加減匙を投げられたらしい。

確かにここ1週間、ヅラにはずっと愚痴っていた気がする。
初日は怒りに任せたまま高杉の悪口を延々と。
2日目はちょっと熱が冷めて、それでも向こうが悪いハズだと延々と。
3日目には謝って来ない事に対してやはり延々と。
4日目以降はこちらも悪かったかな…否、でも…って感じに延々と…。
1週間に至る。って感じだ。

そりゃぁ、嫌にもなるだろう。
てか、俺なら多分初日で放り出してる。もって2日か。
そう考えると、つくづくヅラは面倒見が良い。

長髪と口調はウザいけど。


しかし、はけ口がなくなってしまった。
仕方がない。

「じゃぁさ、愚痴んないから明日遊ぼうぜ?」

「それも断る」

愚痴れないなら、パーッと遊んで憂さ晴らしくらいしたい。
考えて誘えば、速攻断られた。

「えぇーっ!何でだよ!愚痴んないよ?普通に遊ぶだけだよ?お前まで俺のこと蔑ろにする気ー?」

「別に蔑ろにする気などない。が、お前と遊ぶと後が面倒でな…」

「後が面倒ってなんだよ。そんなこと言って、ホントは銀さんのこと捨てる気なんだー」

酷い、捨てないでー。
冗談半分。ちょっと寂しいので本気も半分に抱きつけば、軽く頭を叩かれた。

「捨てない捨てない。しかし、遊ぶのは高杉と仲直りしてからな」

「やぁだ。だってあいつ謝ってこないもん!仲直りしたくっても出来ねぇもん……だからヅラとあーそーぶー!」

言えば言うだけ気落ちしてくるのを誤魔化して、ヅラにくっついたままグリグリと頭を押し付けていれば、頭頂部をいきなり鷲掴まれた。

「いだだだだだっ!痛い痛い痛いっ!!…んっだよ!誰……っ!」

一通り圧力を掛けられ大騒ぎし、漸く解放されたところでいったい誰かと振り返れば、立っていた相手に言葉を詰まらす。

「……た、かすぎ…」

ぽつりと名前を呟き、ハッとする。
ボケッとしてたらまたアホ面とか言われかねない。

「な、何だよ?漸く自分が悪いって気が付いて謝りにでも来たんですかー?でも残念ー。銀さんちょー怒ってんの。ちょっとやそっとじゃ許してあげないからね。けどまぁ、高杉がどうしても許して欲しいってんなら考えてあげなくも―……」

ついさっきまで散々泣き言言ってた同じ口でよくもこうまで憎まれ口が出てくるものだと、自分でも感心する。けど、本人を前にするとどうしても素直になれないのは昔からの性格で、もう一生治らないと思う。
そんなわけで、折角高杉と久々に顔を合わせたと言うのに口から滑り出てくる言葉に内心溜め息つきつつ相手を見やれば、その表情にビクリと言葉を止めた。


すげぇ、冷たい目がこっちを見てる。


あぁ、やっぱり嫌われたんだ…。
大嫌いって言っちゃったもんな。殴ったし。それに、普通この歳で男に自分より女の子の方が、なんて言われりゃウザい以外の何者でもない…。
ホントは気が付いてたけど考えないようにしていた事が、高杉から向けられた視線で嫌でも考えさせられた。

じゃあやっぱり、これからずっとこのままで、高杉と仲直りも出来なくて遊べなくなって……隣に高杉が居なくなるのかな。

そこまで考えたら、唐突に高杉の顔が歪んだ。
冷たかった目が一瞬見開き、次いできゅっと眉根を寄せる。

苛立ったように一度舌打ちが聞こえれば、次には腕を掴まれ引っ張られ。引かれるままに立たされた俺は、そのまま高杉に引っ張られ教室を出る羽目になった。
後ろではヅラが、しっかり仲直りしてくるのだぞー。とか言っていた。
何か、ハンカチまで振ってたっぽい。やっぱりウゼェ。



「…たかすぎ……高杉ってば!何処行くんだよ!!」

しばらく引っ張られるままだったものの、一向に止まる気配のない高杉に言葉を投げる。
一瞬だけこちらを見た相手は、やはり止まらぬまま歩き続け、階段を昇り、特別教室の方までやって来た。
次の時間は授業がないのか、どの教室もシンとしてる。

ここまで来てもやはりなにも言わない高杉に、グイッと引っ張られ空き教室の一室に入ったところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
まぁ今さら、一回授業サボるくらいどうってこともないから良いんだけど。

扉を閉め切り、内鍵まで掛けて完全に外界を切り離せば、漸く高杉がこちらを見てきた。

但し、見てきただけで口は開かない。
さっきのような底冷えするような冷たい目ではなくなったけど、苛立ちを隠しもしない目で睨み付けられるだけで…。

「……何なんだよ、さっきから。言いたいことあんなら、ハッキリ言えよ。ウザいってんなら、近寄らねぇし…嫌いになったってんなら……」
「…………んだ」

嫌われたのなら話し掛ける事もしないようにすると、続けようとしたところで、高杉が何かを言った。
ギリリと奥歯を噛み締める音も聞こえた。

「…何?」

遮るように呟かれた言葉が聞き取れなくて、ちょこっと首を傾げて問いかける。

「何、他のヤツにくっついてやがんだ」
「…………は?」

再度ハッキリと吐き出された言葉は、予想していたものとは明らかに異なるもので。
思わず間抜けな声が出た。

「は?じゃねぇよ。何で他のヤツにくっついてんだって聞いてんだよ!」
「いやいやいや、くっつくって…確かにヅラには抱き付いてたけども。付き合い長ぇし、あれくらい普通にスキンシップだろ?…てか、それ、高杉に何か関係あんの?」
「…………」

あ、黙りやがった。
都合悪くなると黙るんだよコイツ。昔から。

「…確かに、大嫌いとか言っちゃったのこっちだけど、高杉だって逆ギレするし謝りにも来ねぇし。ヅラには…愚痴聞いてもらってたし、それに幼馴染みだし、あんくらい普通だろ?それを……」
「気に入らねぇ」

一々高杉に報告する義務はあるのかと、続けようとしたらまた遮られた。

「はぃ?」
「だから、テメェが、例えヅラ相手だろうと、俺に許可なく他のヤツにくっついてんのは気に入らねぇんだよ」

え?許可なくって何ですか?普通そんなの誰かに許可とか取らないよね?……うん、取らねぇよ。俺間違ってねぇよ。ましてや男友達に許可とか、とる方がドン引きだろ。

「あぁの、さ…えーと、普通、許可とか、取らなくね?てか、男友達にくっつく許可とか取る方がドン引き―……」

至極まっとうな意見をしたつもりが、凄い目で睨まれた。
耐性ないとチビるよ?コレ。

「……何なのよ?許可だの何だの、しっかり言ってくれないと本気で分かんねぇよ…」

ちょっと泣きそうだ。嫌われたわけではなさそうだけど、高杉の言わんとすることが本気で解らない。

ぐっと唇を噛みしめ俯けば、一瞬言葉に詰まった高杉が、次いで堰を切ったかのように捲し立てた。

「…っ…だから!こっちはお前を襲っちまわないようにと思って態々離れてやってんのにこっちの気も知らねぇでヅラ何かと仲良さげにくっちゃべりやがって!大体、他の奴等も他の奴等で俺の目盗んで銀時と約束取り付けるとか許せるわけねぇだろ!テメェは俺のなんだから俺に許可なく他のヤツに構われてんじゃねぇよ!!」

息継ぐ間もなく浴びせられた言葉に、ポカンと口を開けてしまう。

いや、えーと。何処から突っ込んだら良いわけ?突っ込みドコロ満載過ぎて突っ込みが追い付かねぇよ!?
襲っちまわないようにって何ですか!?こっちの気も知らねぇって、ンなの初耳ですからね?つか、ドタキャン原因はテメェが裏で何かやってやがったのかよ銀さんハブられてんのかと思って悩んだわ!つーか、お前のって何だよいつの間に銀さん高杉の物になったんですか?っつーか俺は俺のもの以外の何者でもないからねっ!?

脳みそフル回転で何処から突っ込むべきか考えること0.3秒。

とりあえず……







何かお付き合いはじめましたー。

授業終わって教室戻ってヅラに言ったら、漸くくっついたか。って言われました。

お前、知ってたのぉぉぉぉぉっっ!??

――――――――――


ぐだぐだ万歳。
止め時を見失ったとも言う。



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