ふ、と意識が浮上する。

あぁ、またか…。


もう慣れきった感覚に、嘆きや諦めなんて感情も最早浮かばない。
日に何度も落ちる意識。
今回は最後にどこにいただろうかと、まだ働かない頭で考えながら無理矢理上下くっついたままの瞼を引き剥がそうと試みる。
今日は、ちゃんとベッドにでも入っていたのだろうか、サラリと手触りの良い布地に包まれた体は、いやに暖かい。

珍しくベッドに入っているのなら、別にそうすぐに起き上がらなくとも誰にも迷惑はかからないんじゃないのか、とか。まだ本調子を取り戻せない体が、脳へと告げる自堕落な欲求のままにゴロリと固いベッドの上を……固いベッド?
家のベッドはこんなに固くはなかったはずだ。
気付けば、頭の下に敷いている枕も固い気がする。
いや、暖かいし寝心地的には悪くはないのだが、肉質的な固さが……。

「名探偵、起きたならそろそろ起き上がってくれませんか?」

思考を遮るように唐突に掛けられた声に、それまでくっついたままだった瞼をパチリと開く。
目の前には見たことのあるような、否、毎日見ている顔。
自分そっくりな顔が、有り得ない格好をしてのぞき込んでいた。


「……わあ」


びっくりした。

相変わらず平坦な声には、感情は浮かばなかったけれど。
相手はこちらの反応に、もう少しくらい驚くとかないんですか、などと一人勝手に拗ねている。ように見える。

ようはアレだ、膝枕なのだなと、一人でぶつぶつ言う相手を見るともなしに眺めながら自分の置かれた状況を理解すれば、次は目の前の相手である。

大体人を枕にしていやいや正確に言えば私が自分で乗せはしましたけどそれでもこの状況に何かしらのアクションと言うか…。
聞くともなしに聞いていたが、息継ぎの場所がわからない。
キチガイな格好をしている奴は、こうゆうところもイッパンジンと違うんだな。
興味深く眺めていると、突然黙られた。
その上何故か無言でこちらを見返してくる。

「……」
「……」

「……」

「……そろそろ帰りませんか?」


見返していれば、無言に飽きたのか根負けしたのかそんな台詞。

「おう」

「……」

「……」

「帰らないんですか?」

「いや、帰るぜ」

「……」

「……」

「…起きないと帰れませんよ?」

「だな」

「……」

「……」

「…………お送りしましょうか?」

「悪いな」


がっくりとうなだれた白い鳥。
案外押しに弱いらしいそいつは、俺をくるんだままのマントごと抱き上げて、ビルから降りようと歩き出す。
曲がりなりにも男子一人分。そう軽いわけでもないだろうに、歩調は揺るがない。

溜め息吐きつつ、こいつならちゃんと送り届けてくれるだろう。
そんな不確かな確信の中、俺はまた襲ってきた睡魔にそのまま意識を落としていく。



ところで、お前はその姿のまま帰る気なのか?

やっぱりキチガイな奴は何処かイッパンジンと違うらしい。



――――――――――

怪盗とナルコレプシーな探偵。
探偵目線。

こんな感じにぐだぐだ続けたいと思います。


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