「ナルコレプシー?」

「あぁ」

「眠ってしまう…病気と言うことですか」


名探偵殿から渾身の右ストレートを腹に受けてから1時間と30分程度。まだ若干痛む部位を擦りながら、移動したリビングで話を聞いていた。

ナルコレプシー。
主な症状は睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺。
その他にも自動症や中途覚醒、熟睡困難等、兎も角睡眠と密接した症状を患うそれらは、どうやら小さな探偵殿から戻る際に引き起こった副作用とも呼べるものらしい。
俺自身初めて聞くその病名と症状。聞けば国内での認識度はやはり低いと言う。
彼自身は、都合良くも理解者兼主治医が直ぐ傍に居るため、この程度の副作用で戻れたのだから儲けものだと言ってはいるが、感情を出さないよう努めたり唐突な睡眠で倒れたりなど日常のようで、聞いた此方は居たたまれない。
名探偵等と持て囃されていようが(とは言え身体が戻ってからの彼は一切マスメディアには顔を出さなくなっているわけだが)一応まだ青春真っ盛り…は、あまり彼にそぐわないな。遊びたい盛り……も、しっくりこない。

あれ?何か本当にあまり困っていないのではないだろうか。寧ろ情動脱力発作とやらが起こるほどに感情を顕にしている名探偵殿が思い浮かばないと言うか…。

「お前ぇ、今なんか失礼なこと考えてんだろ」

相手の顔を見返しながらつらつらと考えを巡らせていれば、突然平淡な声がかけられた。

「ぇ?いえいえそんな、まさか」

「わざとらしく嘘臭ぇ否定してんなよ。これでも笑ったり怒ったり普通に出来ないってのも面倒なもんなんだぜ。お前なら、能面の野郎に色々尋ねられて良い気するか?話してやろうって気になるか?」

淡々と告げられる言葉に、その間相手の表情は全く動かないまま。確かにこんな風に淡々と聞かれてはあまり良い気はしないかもしれない。
何と言うか、人間味がない。人形と話している気になるのだ。なまじっか美人な分余計と。

いや、同じ顔だからって自画自賛ではなく。雰囲気ありきでだから。

とまぁ、誰に言い訳したのかは置いといて。やはり大変は大変らしい。

「何と言うか…お若いのに苦労の連続ですねぇ」

「お前ぇに言われたくねぇよ」

とりあえず思ったコトをそのまま口にしたら、間髪入れずに突っ込まれた。
確かに怪盗などという副業を抱えた同年代には言われたくないかもしれない。


「ところで、大概疑問点は話し尽くしたと思うんだが、まだ何かあるのか?」

先程の突っ込みに一人納得していれば、かけられる言葉。

「いえ、特には」

「そうか。じゃぁ、俺は寝に戻る。一応送ってもらったわけだし、泊まっていくなら適当に客間使え。帰るなら此処の始末と…鍵も頼む。一応」

「いやいや、ちょ、待って下さい」

言うだけ言って立ち上がった名探偵殿に、慌てて制止を掛ければ緩く首をかしげられた。
あぁ、こう言うのは仕草だけでもわかるものだな。

「どうした?鍵かけれないのか?掛けれなければ掛けれないでも構わないが。どうせ誰も入れないだろうし」

「いや、鍵は掛けれますがそうではなく」

「じゃぁ何だ?」

「一応私、怪盗などと言うものをやってるのですが?」

「あぁ知ってるぞ」

「…ですから、そんな輩に対して今の言葉だとか、無防備すぎやしませんかね?」

「何だ?何か家から盗みたいものでもあったか?でかい石なんて母さんの持ち物くらいだろうが、目的の物でないのは確認済みだろう?」

「……それは確認済みですが」

「だったら問題ないだろ」

「………そう、ですかね」

「まったく、一々どうでも良いことで呼び止めるな。泊まってく泊まってかないは好きにして良いから、後は頼むな」

「…………はぁ、わかりました」


何だかんだ、相手の勢いに押され切ってしまった。名探偵殿は軽く手を上げてリビングを後にするところだ。宣言通りに自室へ戻るのだろう。

パタンと軽い音を立てて閉まった扉を見詰めながら、話の噛み合わない相手に溜め息しか出てこなかった。




――――――――――


5話目です。
とりあえず今回は説明な感じ…と言っても最初の方だけですが。

進めたい方向は頭にあるのに何だか迷走気味ですが、次は少しは進展?させたいなぁ。
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