勝てる気がしない

※memoで呟いた生徒会パロ
※拍手御礼文




「いい加減にしろこのクソ眼鏡ーっ!」


学校中に響き渡るような怒号が、放課後の緩やかな空間を引き裂いた。
廊下を歩いていた生徒達は、何だどうしたと辺りを見渡す。そして、怒号の発生源である教室を見た途端、またかと呆れの溜息を吐いた。


********


そんな溜息を吐かれていることなど知らない才蔵は、怒りに震える身体を必死に抑えこんでいた。
生徒会副会長である彼の後ろでは、書記の伊佐那海が漫画を一人呑気に読んでいる。

いつもなら才蔵がすかさず取り上げ、注意するのだが、今の彼にそんな余裕はなかった。


「生徒会の出し物がキャバクラって何だよこれ! お前の頭はどうなってんだ!?」


生徒会が文化祭に出店する項目が書かれた紙を眼前に突きつけられているのは、生徒会長。


「いやデスねー。俺の頭の中は常に生徒会の可愛い後輩たちでいっぱいデスよ」


ウインクでもしそうなくらいに爽やかに言ってのける男―――半蔵は、更に怒りを増した才蔵を見上げる。


「キモイわーっ! お前はただ自分が楽しみたいだけだろうが! ていうか女は伊佐那海しかいないだろ! そして何よりキャバクラなんて生徒会がやってたまるかっ!!!」


怒涛の突っ込みに半蔵は嬉しそうに目を細める。その反応を待っていたとばかりに輝く瞳を見た瞬間、才蔵は自分の犯した過ちに気づく。だがそれはもう遅い。


「大丈夫デスよ。なんせ、我が生徒会には鎌之介という最終兵器がいるんデスからね」


キラリと伊達眼鏡を輝かせながら半蔵は足を組んで椅子にふんぞり返る。その姿はまさに生徒会長。誰もが平伏し、付き従うほどの威厳があったが、その発言に威厳は微塵もなかった。


「お前、また鎌之介に女装させる気か! ド変態! 鎌之介は俺のだって言ってんだろうが!」
「才蔵のものは俺のものデショ? それに、鎌之介だけじゃなくて才蔵にも女装してもらいマスからね」
「はぁ!?」


一人キャバクラ計画を押し進める生徒会長に、才蔵はこれ以上は何を言っても無駄だと感じた。この男は一度口にしたことは絶対に実行する。

生徒会に入りたての頃。鎌之介への恋慕を悟られ、「恋のキューピッドになってあげマス」と訳の分からない事を言われ、最終的に無理やり朝礼で、全校生徒・教師の前で鎌之介に告白させられた(晴れて付き合うことになったが、鎌之介と一緒にいると名前もしらない生徒にからかわれるようになった)。

生徒会に入って1年後。「新入生を生徒会に入れるために校門前で勧誘しまショウ」とのたまい、鎌之介と顧問の六郎にナース服を着せて勧誘作業をさせた(新入生には逃げられた挙げ句、半蔵以外の生徒会全員が教頭に怒られた)

その他にも数え切れないくらいのことを半蔵はやってきた。幾度となく付き合わされた身だから分かる。こいつは今回もやる気だ。


「当然、六郎先生にもやってもらいマス。今回はチャイナ服でいきまショウ」


頬杖をついてニコニコと笑う半蔵が悪魔に見える。

才蔵が敗北の溜息を吐いた時、生徒会室のドアが開いた。鎌之介がやって来たのだろうと振り向けば、そこには目を見瞠るような美少女がいた。


「かいちょー。仕事してきたぞ」
「ご苦労様です」
「は? か、鎌之介…っ?」


何でもないような顔で入ってきた鎌之介は、何でもなくない格好をしていた。女子の制服を着用していたのだ。しかもスカートがかなり短い。しかし、違和感は全くなかった。

才蔵は恋人が何故そんな格好をしているのか分からなかったが、鎌之介が半蔵に発した「仕事」という言葉に事態を察した。


「…おい、半蔵。テメェ、鎌之介に何の仕事させたんだ」
「呼び捨ては感心しませんね。会長、もしくは半ちゃんと呼びなサイ」
「誰が呼ぶか! 茶化すな!」


机をバンッと両手で叩く才蔵に溜息を吐いて、半蔵は傍にやって来た鎌之介を片手で引き寄せた。


「校長の接待ですよ」


やっぱり。才蔵は怒りと呆れが複雑に絡み合った、何とも表現し難い表情を浮かべる。


「キャバクラをやるために予算がもう少し欲しかったんデスよ」
「お前……」
「鎌之介、どうでした?」
「いつもの金額より上乗せしてくれるらしーぜ」


女子の制服を着ることに何の抵抗もせず、半蔵の傍にいる鎌之介に才蔵はガックリと肩を落とす。どうせまた半蔵に口八丁手八丁で騙されたのだろう。


「真田校長に何されました?」
「え?あーと、確か……『お前には才蔵がいるのに悪いの〜。罪悪感で胸が痛んで仕方がないわ』って言われて、スカートめくられたり、足とか触られたけど」


にやけ顔で鎌之介に悪戯する校長の姿が簡単に思い浮かんで、才蔵は拳を握り締める。この学校は変態ばっかりなのか。生徒のトップは鬼畜伊達眼鏡変態、学校のトップはニート親父系変態。何でこんな学校に来てしまったのだろうか。後悔が浮かぶ。しかし、この学校に来なければ鎌之介と出会うことはなかっただろう。それを思うと、後悔ばかりするわけにはいかなかった。

それに……。才蔵はニコニコと邪気の溢れる笑顔を浮かべている会長に視線を向ける。

何だかんだ言って、半蔵のことは尊敬している。喧嘩は強いし、頭も切れる。日々の発言の大半は変態的なものばかりだが、生徒会長としての手腕は歴代一と評されるほどである。半蔵には人を惹きつける力がある。かく言う才蔵も彼の才覚に引き寄せられた一員だ。

キャバクラ計画は確実に実行されるのだ。潔く諦めよう。才蔵が嘆息すると、半蔵は鎌之介の身体から腕を外し、ご機嫌な様子で席を立った。


「それじゃ、俺はアナをからかいに行ってきマス。鎌之介、もう着替えいいデスからね」
「おー」


鎌之介に続くお気に入りである女子生徒アナの元に行くため、半蔵は生徒会室から出て行った。人の恋人を好き勝手にしてすぐに遊びに行くとは、相も変わらず奔放な男だ。

会長不在の生徒会室に響くのは我関せずを貫き通していた伊佐那海が漫画のページを捲る音だけになる。
これからどうしたものかと頭を掻く才蔵の傍に、未だに女子の格好をしている鎌之介が寄ってくる。


「お前も何でアイツの言うことをホイホイ聞くんだよ」
「何だよ。悪いか」
「別に……」


才蔵としては恋人が他人に遊ばれるのは嫌だ。半蔵もそれを見越して鎌之介にちょっかいをかけるのだから始末に負えない。
押し黙る才蔵に、鎌之介は宝石のような翡翠の瞳を向けた。


「だって、才蔵が喜ぶと思ったから……」
「は?」
「会長が、この服来たら才蔵が喜ぶって言ったから着たんだよ。じゃなきゃ女子の服なんて着ねーよ」


何てことだ。半蔵は完璧に自分と鎌之介の扱い方を心得ている。才蔵のために女子の制服を着たという鎌之介に、どうしようもなく愛おしい感情が込み上げてくる。

才蔵のため。そう言えば鎌之介は大人しく従うし、そういう理由で鎌之介が動いたのであれば、才蔵は嬉しさを感じてしまうし、許すしかない。それを半蔵は常に見越しているのだ。本当にあの男には適わない。


「……ばーか」
「いたっ」


疑うことを知らない無垢な瞳を持つ恋人の額にデコピンを食らわした才蔵は、ふわりと笑う。

キャバクラは心底勘弁してほしいが、生徒会を止める気にはなれなかった。


120811




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