惚気はいりません

※いろはさまリクエスト
※「才鎌&ライ姫/学パロで受けの彼氏自慢大会」





放課後。人気のない教室の一角で、静かな攻防が繰り広げられていた。


「だ、か、ら! 絶対に才蔵の方が格好いいの!」
「そんなはずないわ。貴方にはライズから溢れ出るイケメンオーラが分からないっていうの?」


机を挟んで向かい合う赤髪の男女は互いに引く姿勢を見せない。その視線は鋭く、相手の言うことなど全て認めないという強固な意志が感じられた。


「才蔵は走るの早いし、身軽だし、何より喧嘩が強い! ライズより強いに決まってる」
「冗談は成績だけにして頂戴。ライズは優雅で、優しくて、何より笑顔が素敵なんだから。才蔵が強いのは百歩譲って認めてあげるけれど、ライズより強いなんてことはあり得ないわ!」


前半は夢見る乙女のように、後半は眦を吊り上げて主張する少女に、鎌之介は「はあ!?」と信じられないとばかりに机を叩く。


「才蔵がライズより弱い!? よく言うぜ。この間不良に絡まれてたとこを才蔵に助けてもらったくせに!」
「な、あ、あれは別に、その、確かに、ええ………。で、でも、貴方だってライズに怪我の手当てしてもらって、とても優しくされてたじゃない!」
「ぐ……、あれはアイツが勝手に………」
「じゃあ私のだって才蔵が勝手に助けに入ったのよ」
「んだと!」
「何よ!」


二人同時に机を叩き、中腰になって睨み合う。互いの息さえ触れ合う距離まで近付いた二人は、端から見れば今にもキスをしそうなカップルだ。だが、周囲に漂う殺伐とした空気が二人が恋愛関係にないということを如実に表していた。


「才蔵は頭いいし、空気読めるし、案外優しいし、強いし、背高い!」

「ライズは秀才で、料理もできて、家事を全てこなし、尚且つ優しくて、とにかくパーフェクトなイケメンなんだから!」


ぐぐぐ…と互いに唇を噛み締めて睨み合った二人は、ふぅ、と同時に溜息を吐き、同時にイスに座った。


「なかなかやるわね……」
「うるせー、才蔵のためだ……」


才蔵が軽く見られないために、自分に対抗しているのだという鎌之介に、赤髪の少女は目を瞬き、小さく笑った。自分がライズを想うのと同じように、鎌之介もまた才蔵を想っているのだろう。

別に才蔵を軽視しているわけではないが、自分の恋人が一番だという気持ちに変わりはない。だからこの勝負に手を抜くようなことはしないが、結局勝ち負けなど存在しないのだろう。たとえ負けたとしても、自分にとってはライズが一番だし、鎌之介にとっても才蔵が一番であることに変わりはないのだから。

この勝負はここでお開きだろう。ほぼ毎日才蔵とライズ、どちらの恋人が良いかという言い争いをしていたが、いつも互いに言いたいことを言って満足して帰るのだ。ただ単に、二人とも恋人自慢がしたいだけなのだろう。

イスの上に膝を抱えて座っている鎌之介をちらりと窺う少女は、机に両肘を置いて頬杖をつく。


「まあ…確かに才蔵は格好いいとは、思うけれど」
「え?」
「一昨日の才蔵は確かにライズに負けず劣らずだったもの」


鎌之介も先程言っていたが、一昨日の放課後、近所の不良校の生徒に絡まれた少女は才蔵に助けられたことがある。颯爽と現れて、不良たちを追い払い、心配だからと自宅近くまで送ってくれた才蔵は確かに格好良かった。


「もしライズがいなければ、好きになってたかもしれないわ」


あくまでライズが一番だとさりげなく主張する少女だが、鎌之介には最後の言葉しか聞こえていなかった。


「お、お前、まさか才蔵に惚れたのか!?」
「んなっ、そ、そんな訳ないでしょ! 確かに才蔵はイケメンだけど、ライズがいなければって言ったでしょう!?」
「才蔵は俺のもんだからな! やらねーぞ!」
「わ、分かってるわよ!」


勘違いしないで頂戴!と頬杖を解いて腕を組む少女に、鎌之介も仕返しとばかりに昨日のことを話し出す。


「ま、俺もライズが優しいのは知ってるけどな。昨日保健室で手当てしてもらったし。二人きりで」
「えええ!?」


今度は少女が焦る番だった。鎌之介の手当てをライズがしたことは知っていたが、まさか二人きりだとは思ってもいなかった。


「ライズと保健室に、ふ、二人っきりで……う、羨まし、あ、違う、違うの、別に変なことを想像したわけじゃなくて……っ!」
「落ち着けよ」
「う、煩いわね! 貴方まさかライズに恋なんてしてないでしょうね!」
「恋〜? 有り得ねー! 俺には才蔵がいるからな」
「わ、私にだってライズがいるわ。才蔵はあくまでお友達よ」


やはり最終的には互いの恋人が一番という結果に終わる。相手の恋人を誉めようとしたはずなのに、結局惚気話になっていた。

一息ついた二人がイスに座り直した時、教室前方のドアが音を立てて開かれる。そちらを見れば、そこには二人が待ち焦がれていた恋人たちの姿があった。


「お前らまた喧嘩してんのか」
「姫。あまり大きな声を出されてはいけませんよ」


呆れたような顔の才蔵と、静かな微笑を湛えたライズが教室に入ってくる。鎌之介と少女の待ち人だ。


「才蔵!」
「ライズ! …べ、別に喧嘩してたわけじゃないんだから」


教師であるライズに職員室に呼ばれていた才蔵を、鎌之介は待っていた。少女は才蔵が教室に帰ってくればライズも一緒に帰ってくるだろうと考え、鎌之介と共に残っていたのだ。


「悪い鎌之介。遅くなった」
「別にいいぜ。コイツもいたしな」
「ちょっと! さっきから思っていたけど、私の名前はお前だとかコイツだとかじゃないわよ!」
「何だよ、姫って呼んだら怒るくせに!」
「当たり前でしょ!? 姫って呼んでいいのはライズだけなの!」
「姫、鎌之介。落ち着いて下さい」
「落ち着けないわ!」


頬を膨らませて怒る少女の頭に才蔵が手を置く。


「うるせーよお前ら。ほら、大人しくしろ」
「ちょ、ちょっと! 才蔵!」


乱雑に頭を撫でられた少女はわたわたと慌てる。乱雑なはずなのに、どこか優しい手付きに、少女の怒りはいつの間にか消えていた。

大人しく頭を撫でられている少女の向かいでは、鎌之介もまた頭を撫でられていた。


「鎌之介も。喧嘩はよくありませんよ。また怪我をしたら大変です。あまり心配させないで下さいね」
「わ、分かってるよ」


才蔵とは違い、母親が子を誉める時のように柔らかく頭を撫でてくるライズの手は、何故だか心地がよかった。

互いの恋人に頭を撫でられる二人は黙って見つめ合う。その顔は不服そうながらも、どこか嬉しそうだった。


「仕方ないわね……今回のところは引いてあげるわ。……才蔵の格好良さに免じて」
「ふん、こっちの台詞だ。……ライズの優しさに免じて」


結局互いに惚気ただけに終わった放課後の一時は、静かに、ゆっくりと過ぎていった。


120711

いろはさま、リクエストありがとうございました!




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