二人の距離

※こはねさまリクエスト
※「才鎌/伊佐那海に嫉妬して怒った後涙ぐんじゃう鎌之介にぐらんぐらん揺らぐ才蔵」





鎌之介は不機嫌だった。その理由は言わずもがな。才蔵である。鎌之介の感情を激しく揺さぶるのは才蔵しかいなかった。それだけ鎌之介の中で才蔵という存在が大きいのだ。

イライラとした表情で見つめる先には才蔵と伊佐那海の姿があった。二人がいるだけなら別段問題はない。だが、伊佐那海が才蔵の腕に自分の腕を絡ませているのが気に食わなかった。そして何よりも、恋人である自分を放って伊佐那海の相手をしている才蔵が気に食わい。鎌之介の元々無いような堪忍袋の緒も切れかけだった。


「ねーねー才蔵ー! 本当に美味しいんだよ、あそこのお団子屋さん!」
「それ何度も聞いたっての」


呆れたように溜息を吐きながらもきちんと相手をしてやっている才蔵に更に苛立ちが募る。鎌之介が伊佐那海と同じようにすれば「うぜぇ」と一言斬って捨てるくせに。

苛立ちとはまた別に感情が湧いてくる。胸が締め付けられるような……言葉では言い表せないような苦しみが鎌之介を襲う。


「……才蔵のばか」


それ以上仲の良い二人を見ていたくなくて、鎌之介は静かにその場を去った。


********


上田城近くの森に鎌之介は逃げ込んだ。適当な場所で腰を下ろし、膝を抱える。膝に顎を乗せて、鎌之介はズキズキと痛む胸が休まる時を待っていた。

だが、胸の痛みはどれだけ経とうが一向に収まる気配を見せない。それどころか時間が経つにつれて痛みが強くなってくる。こんなことは初めてだった。

目を閉じれば、思い浮かぶのは先程の情景。才蔵と伊佐那海の仲睦まじそうな姿。また、胸の痛みが増す。


「才蔵の、あほ」
「だれが阿呆だって?」
「!?」


膝から顔を上げて鎌之介は背後を見る。そこには呆れたような表情を浮かべた才蔵がいた。


「お前急にどっか行くなよ。心配すんだろ」
「……………」


平然とした顔でそう言う才蔵に、鎌之介は再び苛立ちを感じた。
何が心配するだ。伊佐那海しか見ていなかったくせに。伊佐那海しか、相手にしてなかったくせに。


「おい、鎌之介?」
「……の、…か」
「は?」
「才蔵の、ばかぁぁぁーっ!」


鎌之介は傲然と立ち上がり才蔵を睨み付ける。翡翠の瞳に浮かぶのは堪えようのない憤怒。そして。


「何だよ!何しにきたんだよ!あのバカ女の相手でもしてりゃあいいだろ!? あいつのことが好きなら、あいつのことだけ見てろよ! 俺に構うな!」


深い悲しみ。

感情に任せて叫ぶ鎌之介の目は次第に潤み始め、涙の雫がポツンと地に落ちる。
才蔵は思わず目を見開く。鎌之介は自分が泣いていることに気付いていないのか、依然として叫んだままだ。


「才蔵のばかばかばか!俺は、……俺は才蔵しか見てないの、に、?」


小さく震える鎌之介の身体を見た瞬間、才蔵の中で何かが弾けた。鎌之介の頭を自分の肩に押し付けるようにして才蔵は鎌之介を抱き締める。

驚く鎌之介の頭に顔を埋めるようにして顔を伏せた才蔵は、はぁぁと長い溜息を吐いた。


「お前それ反則………」
「な、なに……?」


突然抱き締められた鎌之介はぱちぱちて目を瞬く。そんな鎌之介を更に強く抱き締めて、才蔵はまた溜息を吐いた。

本人は気付いていないようだが、先程のあれは明らかに伊佐那海に嫉妬していた。別段妬かせようと画策して伊佐那海の相手をしていたわけではない。昼の内に伊佐那海の相手をしないと、彼女は夜に才蔵の部屋を訪ねてくるのだ。

伊佐那海に夜自室に来られると鎌之介と過ごす時間が減ってしまう。才蔵にとっては死活問題だ。だからこそ才蔵は昼にとことん伊佐那海の相手をし、夜に自分の元を訪ねないようにしていたのだが。鎌之介にはそれが嫉妬の対象となったらしい。

涙ぐみながら想いを伝えてくる鎌之介に、才蔵は完全に撃ち落とされていた。どうしてこんなに可愛いのだろうか。ああもう意味が分からない。可愛すぎる。


「馬鹿はお前だ。……俺にはお前しかいねーよ」
「……!」


突然の抱擁に戸惑う中、耳元で小さく囁かれたその言葉に、鎌之介は目を見開く。身体全体を通して伝わってくる熱は温かく、囁かれた言葉もまた胸にじわりと染み渡る。


「……ばか……」


ギュッと才蔵の服の裾を掴み、鎌之介は真っ赤に染まった顔を肩口に押し付けた。甘えたような身体を寄せてくる鎌之介があまりにも可愛くて、才蔵は更に自分の元へと引き寄せる。

二人に距離は、最早なかった。


120708

こはねさま、リクエストありがとうございました!




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