恋釣り

※幸さまリクエスト
※「甚鎌で鎌に迫る甚八とまんざらでもない鎌」




草の上に寝そべっているヴェロニカに背を預けるようにして鎌之介は座っていた。その視線の先には河辺で釣りをしている甚八がいる。

甚八と鎌之介が二人でいることは少ない。鎌之介は常に才蔵を追っているし、甚八は放浪癖があり上田にいること自体珍しい。

そんな二人が何故共にいるかと言えば、今日も今日とて才蔵を追い掛けていた鎌之介を甚八が釣りに誘ったのだ。「たまには付き合えよ」と。鎌之介はその誘いに乗ったのだ。

といっても鎌之介自身は釣りをするつもりはなく、興味本位でついてきただけだ。長く山賊をやっていた鎌之介は海関連のことに関してはとても弱い。ただ単に釣りというものを見たことがなかったので、見てみたいと思ったに過ぎない。

甚八が何故鎌之介を誘ったのかは知らないが、大方アナに振られたからだろうと検討をつける。それでたまたま近くを通った自分を誘ったのだろう。鎌之介はふかふかなヴェロニカの身体を撫でながらぼんやりとする。

どうやら調子が悪いらしく、先程から釣り竿は沈黙を保ったままだ。とてつもなく暇だ。けれど何故か鎌之介は甚八を置いて帰ろうとはしなかった。


「おっ、きたぞ!」


歓喜の声が上がり、甚八の握った釣り竿が大きく揺れる。どうやら大物らしく、甚八の身体が引っ張られていた。

数秒の駆け引きの後、水面が大きく跳ねて魚が姿を見せる。こんなところにいるのかと驚くほどに、その魚は大きかった。


「ほら見ろ鎌之介! 上手そうだろ!」
「おー」


甚八が両手で掲げた魚は元気よく跳ねている。鎌之介は純粋にすごいと感じた。

鎌之介の感心したような顔に満足したのか、甚八はニッと笑う。まるで子供のような笑顔だった。


「城に帰って小姓さんに捌いてもらうか」


甚八は釣った魚を傍らに置き、鎌之介の前に座り込む。ヴェロニカに凭れ掛かっていた鎌之介には、だんだんと迫ってくる甚八を避けることは出来なかった。

息さえ触れ合うような至近距離で、二人は見つめ合う。


「なぁ鎌之介。いい加減俺のもんになれよ」
「……はぁ、またそれかよ」


甚八の口癖はいつもそれだった。彼はことあるごとに鎌之介に交際を迫っていた。告白された当初こそ驚き戸惑ったものの、毎日言われれば慣れもする。鎌之介はうんざりしたように顔を顰めた。


「別にいいだろ? それともやっぱあの忍がいいのか?」


あの忍とは才蔵で間違いないだろう。この質問も何度もされていた。

鎌之介にとっての才蔵は恋愛対象ではない。才蔵は全力でぶつかれる唯一の相手というか、とにかく好きだとか愛し合いたいだとかの関係ではない。強いて言うなら殺し合いたい。これは明らかに恋愛感情などないだろう。

甚八も他の勇士たちも鎌之介と才蔵の関係を疑ってくるが、その理由が分からない。どう見たって自分は才蔵よりも甚八を優先しているのに。

今日だって、才蔵がいたのにそれを追いかけることなく甚八についてきたのだ。その時点で既に鎌之介の気持ちは決まっているのに。何故この阿呆は気付かないのか。

鎌之介は別に甚八に迫られることを嫌だとは思っていなかった。

腕を伸ばし、甚八の服を小さく掴む。彼の胸に額を預けるようにして、鎌之介は顔を伏せた。


「……気付けよ、ばか」


そこまでして、ようやく甚八は鎌之介の優先順位に気付いたらしい。一瞬驚いたような顔をした後、にやにやと相好を崩す。


「へへっ、まんざらでもなかったってことか」
「……うるせー」


顔に熱が集まっていくのを感じながら、鎌之介は甚八を睨み付ける。だが羞恥に潤んだ瞳で、しかも位置的に上目遣いにしかならない睨みは甚八の理性を焼き切るだけだった。


「あー、可愛いなぁ」
「ばか、やめろっ、んっ」


胡座を掻いた自分の膝に乗せるようにして鎌之介を抱き寄せ、甘い口付けを贈る。最初は抵抗していた鎌之介もその甘さにやられたのか、いつの間にか甚八に身を委ねていた。

そんな二人を寝ぼけ眼のヴェロニカと地面に置かれた魚だけが見ていた。


120702

幸さま、リクエストありがとうございました!




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