愛情ベクトル

※匿名さまリクエスト
※「♀鎌之介総受け/無防備な鎌之介をハラハラ見守る筧さん」





女とは慎み深く清純であるべきだと十蔵は思う。彼の好みがそういう女性であるからかも知れないが、好き好んで淫らな格好をする者を見るとついつい注意してしまう。陰で伊佐那海やアナに「お父さん」と渾名をつけられていることなど知らない十蔵は、相も変わらず二人の服装に苦言を呈していた。

そんな彼でも注意し辛い人物がいる。初めは敵として出会った鎌之介だ。鎌之介は動きやすさを重視した格好を好むため、自然と肌も露わになる。それが目に毒なのだ。

自覚さえしていれば十蔵もしっかり叱ることが出来るのだが、無自覚な分性質が悪い。鎌之介は自分の容姿の良さを理解していないのだ。
透き通るような白い肌をあんなに惜しげもなく見せられては、誘惑されない男などいないだろう。実際、上田城には誘惑された男しかいなかった。


「鎌之介!」
「あ? 火縄のおっさん?」
「お、お主、何という格好をしておるのだ!」
「はぁ?」


夜。薄暗くなった廊下を歩いていた十蔵はギョッと目を見開いた。風呂上がりらしく、赤髪から雫を滴らせた鎌之介が驚くような薄着で城内を歩いていたからだ。
胸元は大きく開き、臍は常と変わらず見えている。普段は白い上着を着ているから目立たないが、薄着な分身体の線が良く見えて鎌之介が女であることを知らしめている。


「早く服を着ろ!」
「? 着てるけど」


自分の魅力に全く気付いていない鎌之介は小首を傾げて十蔵を見る。何と説明したものかと悩んでいると、何者かが鎌之介に背後から抱き付いた。


「鎌之介ー、あっためてくれー」
「うわっ」
「じ、甚八!?」


鎌之介の白い肌と対照的な浅黒い肌は間違いなく甚八のものだった。彼は鎌之介の肩に額をつけてギュッと華奢な身体を抱き締めている。


「釣りしてたらよ、すっかり冷えちまった」
「こんな時間まで釣りかよ」
「んー、あったけー」


鎌之介は甚八に抱き付かれても慣れているかのように平然としている。これが伊佐那海であれば甚八を張り倒しているところだろうが、鎌之介は大人しくしていた。女としての自覚がないのだ。

それは非常に危ういと十蔵は常々感じていた。鎌之介は強い。どこかへ無理やり連れ込まれることはないとは思うが、それでも心配だった。女としての自覚がない上に容姿の良さも理解していない鎌之介は十蔵の頭を常に悩ませている。


「甚八! 鎌之介から離れんか!」
「ちぇー」


十蔵が居ることに気付いた甚八は渋々鎌之介から手を離す。去り際に濡れる赤髪に短く唇を落とすことを忘れない。それを見た十蔵が怒り出す前に、甚八は姿を消していた。


********


鎌之介の魅力に嵌ってしまったのは何も甚八だけではない。あの六郎や佐助も完全に骨抜きにされていた。
二人は比較的健全な行動を取るため、十蔵としては非常に楽なのだが、一人厄介な人物がいた。


「才蔵ー! ヤり合うぞ!」
「閨の相手としてなら大歓迎」
「ね、閨? 何だそれ。それなら才蔵は相手してくれんのか」
「勿論」
「じゃあ閨の相手する!」
「よーしよし、んじゃあ早速俺の部屋に……」
「待たんか!」


十蔵にとって最大の強敵・才蔵は自分を呼び止める声に振り返る。十蔵と視線が合うと、鎌之介の肩に回していた腕をゆっくりと解いた。


「何だよ、筧さん」
「お主という奴は……。鎌之介を騙すのは止めよ!」
「別にいいだろ。鎌之介が誘ってんだし」
「意味が違うだろう!」


頭が痛くなってくるのを感じながら、十蔵はさり気なく才蔵と鎌之介の間に入る。才蔵はふてくされたような顔をするが、鎌之介はきょとんと目を丸くしている。この様子では閨の意味など本当に知らないのだろう。


「何だよ。筧さんも鎌之介狙いか?」
「なっ……違う! 某をお主と一緒にするな!」


鎌之介は確かに可愛いが、十蔵にとっては娘のような存在だ。大切に想っているが、決して恋愛感情などない。

十蔵の小言をこれ以上聞きたくないのか、才蔵は諦めたように鎌之介から離れていった。


「筧さんの邪魔が入ったからヤり合うのはまた今度なー」
「なっ! まてよ、才蔵!」


ひらひらと肩越しに片手を振った才蔵は鎌之介の呼び掛けに応えることなく姿を消した。忍である才蔵を鎌之介は追い掛けられない。結果、その場には安堵する十蔵と呆然とする鎌之介が残された。


「何で邪魔したんだよ! 火縄のおっさん!」


何が何だか分からない鎌之介からの追及に十蔵は溜息を吐く。あと少しで才蔵に喰われるところだったのに、目の前の少女は全く気付いていない。本当に、無自覚は罪だ。

この様子では鎌之介から目を離せない。アナや伊佐那海に頼むという手もあるが、あの二人は現在のこの状況を楽しんでいる節がある。主である幸村は、才蔵とあまり変わらない。……上田で鎌之介を守れるのは十蔵しかいなかった。


「はぁ…先が思いやられる……」
「おい! 聞いてんのかよ!?」


恋愛は自由だが、娘のような存在である鎌之介が魔の手に掛かろうとしているのを容認することは出来ない。もっと普通の恋愛をしてもらいたいのだ、鎌之介には。今まで恋も愛も知らなかった少女には、幸せになってもらいたい。

その為には何としてでも腹に色々とあくどいものを抱えている男達から鎌之介を守らねばならない。

決意を新たに十蔵は怒り狂っている鎌之介を見る。きゃんきゃん騒ぐ鎌之介の頭をそっと撫でて、目を閉じた。


120625

匿名さま、リクエストありがとうございました!




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