知らない君

※eamさまリクエスト
※「才♀鎌+Allで鎌之介の弱点を探っていくお話」




夜。もうすぐ明日になろうという頃。上田城の一室に勇士達は集まっていた。幸村が気紛れに開いた宴会をしているのだ。
辺りは静かだが、勇士達は酒も入り騒がしく話に花を咲かせている。そんな中、唐突に伊佐那海が酒のせいで赤くなった頬を両手で包みながら首を傾げた。


「そういえば、鎌之介って何か苦手なものとかあるのぉ?」


その言葉に皆が動きを止める。問われた本人である鎌之介は「はぁ?」と訝しげに眉を寄せた。その反応に、伊佐那海は酒のつまみとして作った饅頭を一つ手に取りにゃははと笑い出す。


「鎌之介の苦手なものとか想像つかないよね〜」
「何だか面白そうじゃない」


伊佐那海の話題に一番早く乗ってきたのはアナだった。流石忍。伊佐那海よりも酒を呑んでいるのに全く酔った様子が見られない。
アナはゆるりと酒盛りを楽しむ勇士達を見渡した。


「興味あるわ。鎌之介の苦手なもの」


口元に笑みを浮かばせアナが鎌之介を見る。すると勇士達も口々に「あ、気になる」「確かに」と賛同し始めた。
才蔵の隣でにょろを弄って遊んでいた鎌之介はますます眉を寄せる。どうして皆は自分の苦手なものなんて知りたいのだろうか。意味が分からない。


「ばっかみてぇ。そんなもんどうでもいいし」
「ふぅん。どれどれ」


呆れたように呟く鎌之介に、ニヤニヤとした甚八が背後から近づきうなじを指先でなぞる。突然のことに鎌之介は「うひゃっあ!?」と変な声を上げた。


「な、何すんだよ!?」
「いやぁ。苦手なもんを見つけてやろうと思ってよ」
「ふ、ふざけんな!」


うなじを片手で押さえて鎌之介は憤慨する。しかし甚八はそんな鎌之介を見て「怒った顔もマジ好みだぜ」とどこ吹く風だ。
そんな二人の様子を見ていた十蔵はふむ、と顎に手を当て思案し始める。


「今のは苦手というよりは驚いただけのように感じるな。ここはやはり雷とかだろうか」
「雷なんか苦手じゃねぇよ!」
「女らしく虫とかはどうだ?」
「んなわけねーだろ!」
「鎌之介、女らしいこと、苦手」
「喧嘩売ってんのか!」
「鎌之介は野菜が苦手でしょう」
「それはそうだけど…野菜は何か違うだろ!」


十蔵を始め清海、佐助、六郎に突っ込みを入れていく鎌之介。その隣で才蔵は蛇を食べるような奴が虫が苦手な訳がないと、皆の会話を酒を呑みながらぼんやりと聞いていた。

鎌之介の苦手なものは才蔵も知らない。今まで気にしたこともなかった。だが、気にならないと言えば嘘になる。興味がないように装いながらも、才蔵はしっかりと勇士達の会話に聞き耳を立てていた。


「案外お化けとか?」


伊佐那海が人差し指を立てて案を出す。酔いは少し醒めているようだ。


「まさか。それはないだろう」
「おいらだって怖くないよ、お化けなんて」


十蔵が幽霊苦手案を否定し、弁丸は頭の後ろで腕を組みながら言う。最高の快楽を求める戦闘狂である鎌之介が幽霊が苦手な筈がない。
だよねぇ、そうだとも、あはははは。そんな笑い声が場を満たす中、一人鎌之介に視線を向けていた幸村が目を細めて扇子を閉じる。


「どうしたのだ鎌之介。顔色が悪いぞ?」
「え?」


幸村の言葉に皆が鎌之介を見れば、確かに顔は真っ青で額には冷や汗が浮いている。


「おい鎌之介、大丈夫か?」
「ははは何だよ才蔵。俺は別にお化けなんて怖くねーし苦手じゃねーしははは」
「………あ、後ろに謎の黒い影が」
「いやあああ!」


才蔵が背後を指差した瞬間、鎌之介が彼に抱きついた。一瞬場の空気が固まり、一体何が起こったのかと部屋の中は不思議に静まり返る。


「お化けとかマジ無理無理無理才蔵とって!」
「とってって…虫じゃねぇんだぞお化けは。ていうか鎌之介、お前、お化け苦手……?」
「い、言うなばかぁ!」


才蔵に真っ正面から抱きついたまま鎌之介は弱々しい声を上げる。先程は否定していたが、この姿を見る限り幽霊が苦手なのは明らかだ。才蔵を始め勇士達は衝撃の真実にえええええ!?と驚愕する。


「うそ!? 鎌之介お化け苦手なの!?」
「たくさん殺ってきたのに!?」
「幽霊が、苦手!?」


まさかあの鎌之介にそんな弱点があったとは。伊佐那海たちだけでなく、才蔵も目を見開く。どうやら鎌之介は本気で怯えているようで、微かに震えているのが伝わってくる。少しの罪悪感が湧いてきた才蔵はぎゅうぎゅうと抱きついてくる鎌之介を安心させてやろうと、幼子をあやすかのように背中をぽんぽんと叩いてやる。


「ほら、鎌之介。さっきのは嘘だ。お化けなんかいねーよ」
「嘘だ! 才蔵何かそういうの見えそうだし! 絶対いる……!」


幽霊が見えそうな人間だと思われていたとは知らなかった。別段傷ついた訳ではないが、何だか釈然としない。だが、今はそんな些細なことはどうでも良かった。

普段の服装ではなく寝間着姿の鎌之介はいつもより薄着だ。こうも真っ正面から抱きつかれては女性特有の身体の柔らかさや、胸の感触などがかなり鮮明に伝わってくる。
これ以上恋人である鎌之介に抱きつかれると理性を保たせる自信がなかった。


「お前何でお化けなんか怖いんだよ。本当にいるかどうかも分かんねーだろ?」
「だってもう死んでるのに殺しようがないだろ!お化けとかどうやって殺すんだよ!? それにお化けは絶対にいる! もういや才蔵〜!」


ぎゅう、と才蔵の服を掴み鎌之介は潤んだ瞳で困り顔の恋人を見つめる。

普段こんなに弱々しくて、いつにも増して可愛らしい鎌之介を見ることなどなかった才蔵はズクズクと胸の奥が疼くのを感じる。位置的に自然と上目遣いになり、まるで情事中のであるかのような錯覚を受けた。

ああ、もう駄目だ。理性などとっくに焼き切れている。才蔵は無言で鎌之介を横抱きにして立ち上がり、足早にその場を去った。

部屋に取り残された勇士達は始めはキョトンとしていたものの、すぐに状況を呑み込み大声で笑い出した。


「にゃは! 才蔵ってばえっちー!」
「あら。あれは仕方ないと思うけど? 女の私でも結構きたわよ」
「マジか!アナと鎌之介が二人で乱れるのとか興味あるんだけどよ!」
「甚八やめろ頼む喋るな!」
「ねぇ清海。才蔵は何で鎌之介を連れてったの?」
「………それは弁丸にはまだ早い」
「鎌之介、お化け苦手。………可愛い………」
「幽霊が苦手とは予想外だったのぉ。それより明日は鎌之介は動けんかもしれぬなぁ」
「若、そういうことをこんな所で言うのは止めて下さい………」


好き勝手に喋り始める勇士達の声が聞こえるか聞こえないかという場所まで来た才蔵は、大人しく腕の中に収まっている鎌之介へと視線を落とす。
突然のことに驚いたように目を丸くする鎌之介を見て、才蔵は深い溜息を吐いた。幽霊が苦手だなんて、可愛すぎる。


「何でお前はそんなに可愛いんだよ……」
「か、かわ…っ!? な、何言ってんだよ、才蔵!?」


可愛いと言われて照れまくる少女がどうしようもなく愛おしくて、額に軽く唇を落とす。するとクスクスと擽ったそうに微笑まれ、才蔵も同じく微笑み返す。

愛しい人の意外な一面を知ることが出来た今日は、最高の一日に違いない。


「……あ、お化け」
「ひゃあああ!」


しばらくはこの一言で可愛らしい姿を何度でも見ることが出来そうだ。次はどんな言葉でからかってやろうかと意地悪く考えながら、才蔵は騒ぐ鎌之介を自室へと運び込んだ。


120518

eamさま、リクエスト有難うございました!



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