偶然による必然

※茅さまリクエスト
※「才蔵+♀鎌之介で、お風呂でばったり会ってしまって鎌之介が怒る」



鎌之介は風呂が好きだ。いつまでも入っていたいと思うほどに好きだった。だからいつも長風呂になってしまう。入浴時間が長すぎて他の勇士達が入れないため、鎌之介は基本的に一番最後に風呂に入る。そのことに対して別段不満はないし、何よりそちらの方が好都合だった。

鎌之介は湯に肩まで浸かりながら小さく息を吐く。やはり風呂は気持ち良い。退屈な時間を癒やしてくれる。
今日は才蔵が上田に居なかった。任務に出ていたのだ。才蔵は忍として余程優秀らしく、幸村に重用されている。そのためここ最近では上田に居ないことの方が多かった。
それが鎌之介には面白くない。才蔵とたぎりあえるというから上田にやって来たのに、全くヤりあうことが出来ていないからだ。
そして何より、才蔵の傍に居られないのが嫌だった。それが何故なのかは分からないが、任務で才蔵が自分以外の人間に会っているのではないかと想像するともやもやするのだ。

鎌之介は才蔵のことを考えると心臓の鼓動が激しくなり、体温が急に上がる。彼に触れられるとその症状は更に酷くなる。どうしてそうなるのか、鎌之介には分からなかった。


「何か、ニキニキする……」


濡れた赤髪をくしゃりと片手で掻き混ぜて、風呂から上がる。普段はどれだけ入っていても逆上せることなどないのに、今日はやたらと身体が熱かった。

どうせ才蔵は今日も帰ってこない。ならば起きている意味もない。風呂から上がってさっさと寝よう。そう考えながら出入り口の戸に手を掛ける。
すると、突然その戸が開いた。


「えっ」


戸の向こうから姿を現した人物に鎌之介は暫し放心する。


「あ? 何だ、鎌之―――……え?」


そして風呂に入って来た人物―――才蔵もまた、動きを止めた。

二人を遮っていた戸は開かれ、互いの姿を隠す物は何処にもない。才蔵も鎌之介も身に何も纏っていない状態で呆然と向き合っていた。


「鎌之介、お前………女………?」


才蔵がぽつりと呟く。その視線の先を辿るようにして下を見れば、そこは自分の胸元。少しの膨らみしかない貧相な胸が視界に入った。


「あっ………!」


慌てて両手で隠すも既に手遅れ。才蔵はばっちりと鎌之介の裸を目撃してしまった。言葉を失ったかのように口を小さく開いたまま動かない才蔵を前にして、鎌之介はその場にしゃがみ込みたい衝動に駆られた。


(ば、ば、バレたーっ!)


才蔵にだけは知られたくなかった。才蔵には、対等の立場で見ていて欲しかった。そう、男という立場で。今まで散々女だからと下に見られてきた。それが嫌で嫌で仕方がなかった。
だからこそ男と偽り、男として過ごすことでその屈辱を跳ね退けていたのに。一番男として見ていて欲しかった人物に、知られてしまった。


「何で入ってくんだよ! 才蔵の、ばかぁ……っ!」


じわりと目の奥が熱くなるのを感じる。馬鹿みたいに突っ立っていることしか出来ない自分が嫌になる。才蔵と対等になれない。それが何故だかとても悲しくて、鎌之介は必死に堪えていた涙をぽろりと零す。

すると、バサリと頭から何かを被せられた。


「……?」


視界を覆った物を手に取る。それは、ちょうど鎌之介の身体を覆い隠せる大きさの布だった。布を投げた相手―――才蔵を見れば、彼は鎌之介から視線を逸らしながら軽く右手を振った。


「馬鹿。湯冷めすんぞ。早く着替えて来いよ。そんで今日のことは忘れてさっさと寝ろ」


鎌之介の身体からわざと視線を外した才蔵は冷静を装った顔で風呂へと入っていく。鎌之介の横を通った時も、才蔵は少女の方を見ようとはしなかった。
その態度も、投げられた布も、どちらも才蔵の気遣いだと鎌之介は分かっていた。風呂に浸かった才蔵の背中を見つめながら、鎌之介は布を肩から羽織って脱衣所へと向かう。

開け放たれたままの戸に手を掛けた鎌之介は少しだけ振り向き、頑なに背中を向ける才蔵に声を掛けた。


「才蔵!」
「何だよ」
「……あ、ありがと」
「………!」


小さく礼を言い、すぐさまピシャリと戸を閉める。そしてその場にずるずるとしゃがみ込んだ。

バクバクと心臓が激しく脈動し、身体中の熱が上昇していく。両手を胸元で握り締めながら、鎌之介は真っ赤に染まる顔を俯けた。


(何、何これ。変、変だ。心臓が煩い。熱い。恥ずかしい。ニキニキする……っ!)


まるで才蔵に頭に触れられた時のような感覚。自分で自分が分からなくなる、恐怖。でもどこか心地良くて温かい、幸せな気持ち。複雑な感情が絡まり合ってまともに立っていられなくなる。才蔵に何かされる度に、こんな気持ちになってしまう。


「訳、分かんねー……」


けれども悪い気分ではない。むしろ、嬉しいといった感情の方が強いような気がする。
ますます訳が分からなくなって、鎌之介は両膝に顔をうずめる。戸の向こうに感じる才蔵の気配のせいで、心臓の音が静まる気配は全く無かった。


********


湯船に浸かった才蔵は先程の光景を思い出して若干顔を赤くする。今更女の裸を見て赤面するなんて。馬鹿じゃないのかと自分でも思うのだが、あの白い肌が脳内をチラつく度に心臓がドクリと跳ねる。


「何やってんだ、俺は……」


鎌之介が女であることには驚いた。だがそれ以上に、鎌之介の可愛さに驚いた。男だと思っていた時から度々可愛いな、と感じることはあったのだが、先程の顔を真っ赤にして泣き出した姿は心を奪われてしまう程に可愛かった。

鎌之介が男だろうが女だろうがどうでもいい。ただ、もう一度だけ、鎌之介の泣き顔が見たかった。


「って、俺は変態か………」


長い任務のせいで疲れているのだろうか。思考が若干危ない方向に進んでいる。
口元まで湯に浸かり、ぶくぶくと息を吐く。白い肌、濡れた赤髪、華奢な身体……。今日見た光景は二度と忘れないだろう。あまりに魅力的で、何より美しかったから。


「反則、だろ……」


以前から気になっていた人物が自分好みの女だったなんて。才蔵は最終的に全身を湯の中に沈めて不自然に上がった身体の熱を誤魔化そうとした。


********


翌日。様子のおかしい二人を見咎めた幸村により全てを吐かされ一騒動起きるのは、また別のお話。


120515

茅さま、リクエスト有難うございました!





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