溺死快楽

※398さまリクエスト
※「幸村様に口説かれる鎌ちゃんと、嫉妬した才蔵さんが鎌ちゃんにお仕置きと称し、あんなことやこんなこと」




才蔵を探している途中で幸村に部屋へと呼びつけられた時、嫌な予感はしていたのだ。鎌之介は自分の目の前で愉快そうに目を細める年上の主を胡散臭さそうに見つめた。


「ほれ鎌之介、もっと近くに来んか」
「はぁ?」


にやけながらちょいちょいと手招きしてくる幸村に鎌之介は眉を寄せる。才蔵を探していたのにその邪魔をされて鎌之介の機嫌は最高に悪かった。
だが、何故か幸村の言葉には素直に従ってしまうのだ。変なことを言うものだと呆れながら鎌之介は腰を上げて幸村の元へと近付いていく。

二人の距離がぐっと短くなった時、幸村が鎌之介の腕を引っ張った。


「う、わ…っ!?」


突然引っ張られたことにより体勢を崩した鎌之介は床に座る幸村に抱き留められる。離れようとすると身体を強く抱き寄せられた。

幸村は鎌之介の華奢な身体を抱き締めて口元を緩める。


「鎌之介は可愛いのう」
「ちょっ、何……」
「才蔵ではなく儂にせんか?」


顎を掬われ至近距離で甘く囁かれる。互いの息が触れ合うほどの距離。幸村の片腕はしっかりと鎌之介の腰に回っている。


「儂ならいつでも構ってやるぞ?」


才蔵は普段鎌之介につれなく接する。構ってくれないことも多い。才蔵に相手にされなくて鎌之介が傷ついているのを幸村は知っていた。
綺麗な翡翠の瞳を覗き込み、幸村は更に鎌之介の身体を引き寄せる。鎌之介は特に抵抗することなく幸村の腕の中に大人しく収まっている。

今にも唇が触れ合いそうな二人の耳に、ドタンという衝撃音が飛び込んできた。

何事かと鎌之介が振り向くと、幸村の自室の襖に手を掛けた才蔵がいた。先程の音は彼が襖を開け放った音だったらしい。
突然の登場に驚く鎌之介と小さく笑う幸村を見た才蔵はこれ以上ないというほどに眉間に皺を寄せた。そして足音強く室内に入り、幸村の腕の中にいた鎌之介を自分の元へと強引に引き寄せた。


「わっ……!」
「あ〜、儂の鎌之介が!」


才蔵に正面から抱き締められるようにして引き寄せられた鎌之介は少し顔を赤くする。その後ろでは幸村が残念そうに声を上げた。


「だ・れ・が、オッサンのものだって……?」


底冷えするような低い声を出した才蔵は幸村を鋭く睨み付ける。一目で分かるほどに彼の機嫌は悪かった。「儂のもの」という発言が余程気に食わなかったらしい。

才蔵は腕の中にいる鎌之介にチラリと視線を遣った後、幸村をジトリと見下ろした。


「いい加減にしろよ、オッサン。鎌之介は俺のもんだ」


そう短くいい残し、才蔵は鎌之介を横抱きにして部屋を去っていった。

「さ、才蔵!?」と赤面しながら驚く鎌之介の声もやがて聞こえなくなり、部屋には幸村だけが取り残される。一人残された幸村は開け放たれたままの襖を見て嘆息する。軽く口説いただけなのに嫉妬するくらいなら初めから放っておかなければいいのに。


「馬鹿だのぉ」


その言葉は嫉妬に狂う才蔵に向けてのものなのか、それとも勝ち目がないと分かっていながら口説かずにはいられない自分に向けてのものなのか。それは幸村にも分からなかった。


********


横抱きにされたまま才蔵の部屋へと連れてこられた鎌之介は、静かに床に下ろされ目を瞬く。才蔵の唐突すぎる行動の意図が分からず混乱していた。

才蔵は自室に来るまでの間、一言も発さなかった。始終無言で鎌之介を自分の部屋へと運んで来たのだ。

妙な気まずさに鎌之介が視線を泳がせ始めた時、才蔵が視線を合わせるためにゆっくりとしゃがみ込んだ。じっと無言で見つめられては無視をすることも出来ない。鎌之介は恐る恐る才蔵を見る。すると、才蔵は微かに目を細めた。


「鎌之介」


小さく名前を呼んだかと思うと、才蔵は鎌之介を床に押し倒した。驚く鎌之介の両手首を片手でひとまとめに拘束し、才蔵はふっと口角を吊り上げる。


「俺がいるのにオッサンと浮気だなんて上等じゃねぇか」
「なっ、違……!」



浮気など断じてしていないし、才蔵以外の人間を好きになるつもりもない。そんなことは才蔵だって分かっているはずだ。

否定しようと口を開こうとすれば、才蔵の指先が首筋を妖しくなぞる。くすぐったいような、心がざわめくような奇妙な感覚に鎌之介は身体を震わせる。その反応を見て、才蔵はニヤリと意地悪そうに唇を歪めた。


「―――お仕置きだ」


先程指先でなぞった箇所を舌で舐め上げれば、才蔵によって日夜快楽を教え込まれた身体は素直に反応する。
顔を赤くしてびくりと震える鎌之介に気を良くした才蔵は、今度は惜しげもなく晒されている腹に指を滑らせた。


「ひゃ……!」


微かに疼いていた身体はその囁かな刺激にさえ敏感に反応を見せる。しっかりと触れるのではなく表面だけをなぞるようなもどかしい指の動きに鎌之介の瞳にじわりと涙が浮かぶ。


「さい、ぞ、……それ、駄目……っ」
「何が駄目なんだ?」


分かっているくせにわざと尋ねてくる才蔵を睨みつければ、意地悪く笑われ顔が熱くなるのを感じた。口に出すのが恥ずかしい。けれども言わなければ才蔵はこの行為をずっと続けるだろう。

言いたくない。しかしこのもどかしい状態をどうにかしたい。早く―――決定的な快楽が、欲しい。

結局折れたのは、鎌之介だった。これ以上ないというほどに顔を赤く染めて、熱に浮かされたように潤む瞳で才蔵を見つめながら、鎌之介は小さく口を開いた。


「ちゃんと……触って……?」


床に組み敷かれた状態で煽るような言葉を紡ぐ唇に、才蔵は噛みつくようにして自分のものを合わせる。


「は、ぁ……ん、」


激しい口付けに思わず甘い声が零れる。手首の拘束はいつの間にか解かれており、今はお互いの手が絡み合うようにして触れ合っていた。腹に触れていた才蔵の指は鎌之介の頬を優しく撫でる。

才蔵は嫉妬していた。自分を追い掛けていたはずの鎌之介がいつの間にか幸村の元にいて、しかも抱き締められていたのだから。更に才蔵の嫉妬心に火をつけたのは、鎌之介が抵抗する様子もなく大人しく幸村の腕の中に収まっていたことだった。

鎌之介は自分のものだ。他の誰にも触れさせたくない。自分だけの、ものなのに。幸村に口説かれている鎌之介を見た瞬間、その想いが溢れ出して止まらなくなった。だから鎌之介を強引に自室に連れ込んだのだ。―――鎌之介が、誰のものなのかを教えるために。

やがて二人の唇が離れる。あまりの激しさに息を上げる鎌之介の衣服に手を掛けながら、才蔵は欲を孕んだ瞳で愛しい存在を見下ろす。


「お仕置きはまだこれからだぜ……?」


耳元でそう囁かれ、鎌之介は頭の芯がぼやけるのを感じた。才蔵の言葉一つでこうも心を左右される自分が情けない。だが、そんな自分が嫌いではないから困るのだ。

これから一体どんな仕置きが待っているのか。それを想像するだけで心の奥がズクズクと疼くのを感じる。鎌之介は才蔵なしでは生きられない身体になってしまっていた。

また、才蔵の唇が鎌之介のものと重ねられる。先程よりも更に深く長いそれは、鎌之介の思考を完全に停止させた。

ああ、もうどうでもいい。ただ、快楽が、欲しい。
鎌之介は目を閉じる。仕置きだというのに身体が疼くて仕方がない。

才蔵から与えられる刺激を一身に受けながら、鎌之介は深い快楽の波へと飲み込まれていった。


120510

398さま、リクエスト有難うございました!




top



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -